- 『成吉思汗の秘密』高木彬光

2006/01/12/Thu.『成吉思汗の秘密』高木彬光

高木彬光『古代天皇の秘密』が面白かったので本書も読んでみた。『邪馬台国の秘密』へと続く、名探偵・神津恭介のベッド・ディテクティブ・シリーズ第1弾。

盲腸炎に入院を余儀なくされた神津恭介は暇を持て余していた。彼の友人である作家・松下研三は、<ジョセフィン・ティ『時の娘』に倣い、病床の暇潰しに「何かこの際、日本の歴史を書きかえるような、一大発見」をしてみれば、と神津に提案する。2人が選んだテーマは、「源義経 = 成吉思汗 (ジンギスカン)」の証明であった。

奥州平泉は衣川の戦いで破れた義経は、しかし死んだのではなく、陸奥を海沿いに北上し (北行伝説)、津軽から蝦夷に渡海、樺太に上陸して間宮海峡を渡り、大陸を横断し、モンゴルにて成吉思汗として立ち上がる。このような言い伝えは江戸時代から語られていたが、大正年間に小谷部全一郎『成吉思汗は源義経なり』が発表されるに至り、一大論争へと発展する。以後、周期的にブームが訪れるが、もちろん証明されたことはなく、定説ともなっていない。

実際に義経が成吉思汗であるかどうかはともかく、「義経 = 成吉思汗」という仮定に立って眺めた義経 (成吉思汗) の風景、とでもいうべきものが面白かった。なぜ彼の帝国はあれほど大きいのか、そして「成吉思汗」という名前に託された彼の想いとは何か。そこに 1人の男の人生が鮮やかに浮かび上がる。義経北行伝説を彩る椿山伝説 (義経の落とし胤という娘と、土地の男の心中伝説) と合わせ、本書の後段は推理ゲームの域を飛び越える。

説の弱点を探すのではなく、純粋に小説として読みたい 1冊。