- Book Review 2005/06

2005/06/12/Sun.

松本清張の随筆集。推理小説に関する彼の考え方、発想方法、創作ノートなどなど、その舞台裏を明かしている。

探偵小説の読者にとって最も面白いと思われるのが、冒頭の「推理小説の魅力」であろう。松本清張といえば社会派推理小説の創始者であるが、なぜ彼がそのような新しいジャンルを切り開いたのかを、彼自身が持っていた問題意識と共に解き明かしている。

清張がそれまでの探偵小説に対して抱いていた不満は、それが作り物に過ぎるという点にあった。そこで彼は、物語にリアリティを出すため、これまでおざなりにされていた「動機」に生命を吹き込もうとする。しかもそれは、現代的なものでなくてはならない。嫉妬、怨恨、金銭、そんな単純な動機では意味がない。清張は、社会機構 (= 組織) の中に存在する平凡な人間の中にそれを求めた。平凡な人物を「犯罪」という特殊な環境で描き出すことによって、彼は新たな小説世界を産み出した。それが社会派推理小説であり、その手法を応用した一連の歴史小説であり、ノンフィクションである。

その小説観がいかに透徹したものであったか。「清張以後」という言葉ができるほどに、彼の創作方法が広く浸透したことからもわかる。本書は、そのエッセンスに触れられる一冊である。