- 『物理と数学の不思議な関係』マルコム・E・ラインズ

2005/01/01/Sat.『物理と数学の不思議な関係』マルコム・E・ラインズ

青木薫・訳。<数理を愉しむ>シリーズの 1冊。邦訳副題に『遠くて近い二つの「科学」』とある。原題は "ON THE SHOULDERS OF GIANTS"(巨人の肩の上に)。

物理と数学

原題が意味する「巨人の肩の上に」というのは、「巨人の肩の上の小人は、巨人よりも遠くを見る」という故事に由来する。「どんな分野であれ研究というものは、すでに確立された『知識の共有財産』の上に成り立っている。新しい研究成果とは、そこになにがしかを付け加えることなのだ」(本文より) という事実を暗喩している。そして、物理学という小人にとっての巨人は、常に数学であった。

これは何も物理学を貶めているわけではない。どうして実験によって発見される新しい物理的現象を、いつも数学が美しく説明するのだろうか。ある物理現象を説明する数学は、何も物理学のために研究されたわけではない。何の実用性も考えずに、単なる数学的興味を満たすため、時には何百年も前に構築されて忘れられていた理論が、最新鋭の機器によってようやく観測できるようになった新しい物理現象を、実にうまく記述する。この密接な関係は何なのか? そこが眼目である。

これを教科書にしろよ

本書で扱われる「数学と物理の蜜月」は、広汎な範囲に及ぶ。物理化学の結晶格子、天体物理学の重力問題、量子力学における粒子の運動、構造化学の位相幾何学 (トポロジー) 的問題、フラクタルと粒子の量子的振る舞い……etc。どれも物理 (あるいは化学や生物学) における難問であった。これらの科学的基盤を、数学は提供する。

様々なエピソードを交えつつ、上記の重要な問題に関して、筆者は時に数式をもって丁寧に説明する。丁寧だから簡単というわけではないが、微分積分ができれば、大半の問題は理解しながら読み進めることができる。全ての数式を把握せずとも本書は楽しく読めるが、基本的な問題ばかりなので、是非とも紙と鉛筆で数式を解きながら読み進めたい。