- 『レックス・ムンディ』荒俣宏

2004/11/30/Tue.『レックス・ムンディ』荒俣宏

「レックス・ムンディ」は「世界の王」を意味するローマ語。キリスト教の歴史的暗部を題材にしたサスペンス・ホラー。

レイ・ライン

近年、世界中で奇妙な病気が流行している。それらは普通、未開の奥地でしか発症しないものなのだが、人間の行動領域が広がるにつけ、先進諸国でも突然現れたりするようになった。……という話から入り、それに絡めて、キリスト教のある伝説が語られる。その伝説によれば、欧州の某地に、キリスト教の歴史のみならず、現代世界を引っ繰り返すようなモノが埋蔵されているという。

そのモノを巡って、様々な組織や人が対立する。中でも、その「モノ」の第一発見者であり、「モノ」の恐ろしさのあまりに一度は爆破しようとしたレイ・ハンター青山譲が主人公として活躍する。

「レイ・ハンター」とは、西洋の風水とも言うべき「レイ・ライン」を探すフィールドワーカーである。「モノ」の安置場所、キリスト教のある伝説は、このレイ・ラインと密接に関わっているわけだ。このあたりは荒俣宏の十八番とするところであり、語られる蘊蓄も非常に興味深い。あるいはそのような「モノ」があるのかも……と想像させる手腕は一流だ。

バイオ・ホラー

さて、話の筋はサスペンス・ホラーなのだが、「モノ」に関する部分は、バイオ・ホラーとしても楽しめる。……はずなのだが、博覧強記で知られる荒俣先生らしくなく、バイオ関係の記述はいい加減である。キリスト教、レイ・ラインの部分の濃さが濃さだけに、ここさえもう少し勉強してくれれば、と惜しくて仕方がない。

それは何も、俺が生物学を専攻しているから目に入る、というわけではない。客観的に見て、鈴木光司『らせん』『ループ』や、瀬名秀明『パラサイト・イヴ』に比べて、本書のバイオ・ホラーとしての魅力は一段劣る。正確な記述に裏打ちされた、圧倒的なリアリティーがないのである。そのために怖さ激減。まことに残念だ。