- 『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前』塩野七生

2004/09/09/Thu.『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前』塩野七生

『ローマ人の物語』単行本第IV巻に相当する、文庫版第8〜10巻。

歴史は好きだが、知識としては「日本史ならどうにか」という俺は、ずっと中国史や西洋史を勉強しなければと思い続けていたのだが、これがなかなか敷居が高い。そんなとき、2年前に始まったのが塩野七生『ローマ人の物語』の文庫化だ。ようやくローマ史に疎い俺でも知っている名前が出てきたのが、この巻である。

ユリウス・カエサル

古今東西の優秀な指導者の中で、その筆頭に挙げられることも多いカエサルだが、実のところ、具体的に何をしたのかを知らない俺のような人間には、本書は良いテキストだろう。前半では、カエサルの生い立ちから若い頃までが、克明に描かれている。

意外だったのは、彼が本格的に活躍するのが 40歳になってから、ということだ。執政官を務めた後、カエサルは北イタリアのローマ属州総督として、ガリアの地 (現在のフランス、スイスを含む中央ヨーロッパ) に赴任する。

ガリア戦役

ガリアは、いまだローマの覇権が及ばぬ多民族地域であった。8年の歳月をかけ、カエサルはこの地を平定する。その過程でライン川の渡河、ブリタニア (現在のイギリス) への上陸を、それぞれ二度果たす。これが、ドイツとイギリスが歴史に登場する初めての瞬間である。というのも、カエサルは陣中で『ガリア戦記』と呼ばれる報告書をしたためており、その達意の文章が広くローマ市民に愛され、現在まで伝わっているからだ。彼は文筆家でもあった。『ガリア戦記』は、その直訳 (できるだけ生のカエサルの文章を伝えたいという、筆者の想いによる) が、本書ではふんだんに引用されている。機会があれば『ガリア戦記』も読んでみたいものだ。

ガリア平定のため、カエサルはローマの法から逸脱した権力を必要とした。これを実現したのが、クラッスス、ポンペイウスとの「三頭政治」である。本書は、この三頭政治が破綻し、これまで彼に業を煮やしてきた元老院が、「元老院最終勧告」という伝家の宝刀を抜いたところで終わる。彼はローマを改革するため、軍勢を率いたままルビコン川 (ローマ本国と属州の境界) を越える決意をする。

盛り上がったところで、以下続刊。「ルビコン以後」についても、またここで取り上げるつもりである。