- 『物理学者はマルがお好き』ローレンス・M・クラウス

2004/07/14/Wed.『物理学者はマルがお好き』ローレンス・M・クラウス

「数理を愉しむ」シリーズの一冊。副題は「牛を球とみなして始める物理学的発想」。

「数理を愉しむ」シリーズは、サイエンス、特に数学や物理に関わるノンフィクションである。日本にこの手の本は少ない。無論、数学者や物理学者が一般向けに書いた本はあるが、「数学的に社会を見るとどうなるか」といった、いわゆる応用的な著作が多い。養老孟司もそうだ。

数学者が数学そのものについて書いた、というような本が出版されないのは、それが売れないからだろう。しかし欧米には、面白い本がたくさんある。売れるのだ。国民が持つ、サイエンスに対する関心の違いだろう。日本でも、もう少しこの種の著作が増えれば良いのだが。

物理学的発想

『物理学者はマルがお好き』では、主に現代物理学の話が展開される。が、ガリレオやニュートンに関する記述も、少なからずある。重要なのは、最先端の物理学も、基本的にはガリレオの確立した思想的基盤によって発展しているということだ。そこに断絶や飛躍はない。

古典力学から最新の理論まで、全ては同じ「物理学的発想」から思考を展開した産物である、というのが、一つの重要な主張だ。それは「いらないものは捨てる」という手法であったり、「『なぜ』を問わず『どのように』を記述するだけ」といった哲学であったりするのだが、これは物理学以外にも適用できる重要な指針だろう。このエッセンスを汲み取れるだけでも、一読の価値はある。