山崎 匪賊はむやみに、仲間どうしで義兄弟になりたがる。兄弟というものは、親子関係に直角に交わる関係ですから、兄弟を親子より大事にするということは、まぎれもなく反儒教思想であるわけです。
［略］
もう一つの流離者は、私にいわせれば華僑です。華僑というのは、だいたい明ぐらいから始まっていて、その原型になったものが、いわゆる客家だといえそうです。［略］この客家が何をつくったかというと、徹底した血族集団なんです。先ほどいった基本的儒教思想そのままを、流離したがゆえに純粋なかたちで保って流浪している、非常に逆説的な人たちが客家なんですね。
（丸谷才一／山崎正和『二十世紀を読む』「匪賊と華僑」）