膵臓 (pancreas) は トリプシン (trypsin)、RNase A、α-amylase、phospholipase A2 などの消化酵素を合成し、導管より小腸 (intestine) に分泌する外分泌腺 (exocrine gland) である。膵臓には Langerhans 島(膵島)という分泌細胞集団が存在し、膵臓組織の 1〜2% を占める。Langerhans 島には α、β、δ の 3種の細胞があり、これらが分泌するペプチドホルモンによって、エネルギー代謝の恒常性を維持する。Langerhans 島細胞はグルコースセンサーとして働くが、自律神経系や消化管ホルモンの影響も受ける。
α 細胞で産生される 29残基ポリペプチドホルモン。低血糖値に呼応して分泌され、肝臓ではグリコーゲン分解と糖新生を促してグルコースを放出させ、脂肪組織では脂肪分解で脂肪酸を放出させる。
glucagon: HSQGTFTSDY SKYLDSRRAQ DFVQWLMNT
β 細胞で産生される 51残基のポリペプチドホルモン。高血糖値に呼応して分泌され、筋肉、肝臓、脂肪細胞によるグリコーゲン、タンパク質、脂肪の合成を促進してグルコースを貯蔵する。
- bovine insulin:
- A鎖; GIVEQCCASV CSLYQLENYC N
B鎖; FVNQHLCGSH LVEALYLVCG ERGFFYTPKA
δ 細胞で産生される 14残基のポリペプチドホルモン。視床下部からも分泌され、インスリンやグルカゴンの分泌を抑えるから、膵臓では傍分泌機能を持つらしい。
栄養素の消化吸収は、自律神経系とポリペプチドホルモン系の協調によって調節される。消化管ホルモン (gastrointestinal hormone) は、消化管内面の特殊な細胞系から血液に分泌される。この細胞系の全量は、他の分泌系の総量を越える。
消化管ホルモンは近縁ポリペプチドファミリーを形成する。ガストリンと CCK の C 末端 5残基は共通であり、セクレチン、GIP、グルカゴンは互いによく似ている。
17残基のポリペプチドホルモン。胃粘膜で産生され、HCl とペプシノーゲン (pepsinogen; pepsin 前駆体) の分泌を促進する。アミノ酸、ポリペプチド、胃の膨張に呼応して胃神経を刺激する迷走神経などの刺激でガストリンの分泌が促進され、HCl、他の消化管ホルモンの影響で分泌が抑えられる。
27残基のポリペプチドホルモン。胃液の HCl による酸性化に呼応して十二指腸粘膜で産生され、膵臓による HCO3- の分泌を促進して、酸を中和させる。
33残基のポリペプチドホルモン。十二指腸 (duodenum) で産生され、胆嚢収縮、膵臓からの消化酵素と HCO3- の分泌を促進してセクレチンの作用を高め、胃の収縮を抑制する。脂質とタンパク質の消化物(脂肪酸、monoacylglycerol、アミノ酸、ペプチド)に呼応して分泌される
43残基のポリペプチドホルモン。小腸内面の特殊な細胞から分泌され、胃液の分泌、胃の運動、胃の収縮を抑制する。また、インスリンの分泌を促進する。消化管にグルコースがあれば GIP の分泌が促進される。食後、血糖値が上がる前に血中インスリン濃度が上昇するのはこのため。
甲状腺 (thyroid) はトリヨードチロニン (T3; triiodothyronine)、チロキシン (T4; thyroxine) という近縁アミノ酸誘導体ホルモンを分泌し、各種組織の代謝を促進する。T3、T4 は非極性物質で、主にチロキシン結合グロブリン (throxine-binding globulin)、またはプレアルブミン (prealbumin)、アルブミン (albumin) などの血漿タンパク質と複合体を形成して標的細胞へ運ばれる。細胞膜を通って細胞質に入ると、特定のタンパク質と結合する。この複合体は核に入れないので、細胞質内で甲状腺ホルモンの貯蔵体として働く。
甲状腺ホルモン受容体 (thyroid hormone receptor) は、染色体の非ヒストンタンパク質で、核で T3 と結合すると転写因子として活性化され、各種の代謝酵素の合成を促進する。T4 にも同様の作用があるが、T3 に比べて弱い。
甲状腺ホルモン受容体は、ステロイドホルモン受容体 (steroid hormone receptor) の相同タンパク質である。ミトコンドリア内膜にも、甲状腺ホルモン結合部位がある。
甲状腺ホルモン濃度の異常は病気の原因となる。
32残基のポリペプチドホルモン。甲状腺の分化した分泌細胞で産生される。骨と腎臓からの Ca2+ 再吸収を阻害し、血清 Ca2+ 濃度を下げる。
84残基のポリペプチドホルモン。副甲状腺 (parathyroid) から分泌される。骨と腎臓からの Ca2+ 再吸収と小腸からの Ca2+ 吸収を促進し、血清 Ca2+ 濃度を上げる。
副腎髄質 (adrenal medulla) は交感神経系(自律神経系の一部)の延長にある。副腎髄質では 2種類のカテコールアミンホルモン (catecholamine hormone)、ノルアドレナリン (noradrenalin) と、そのメチル誘導体である
カテコールアミンは 2種類の膜貫通受容体、アドレナリン α 受容体 (adrenalin α-receptor, α-adrenoreceptor) とアドレナリン β 受容体 (adrenalin β-receptor, β-adrenoreceptor) の仲介でシグナルを伝達する。両受容体は糖タンパク質で、特定のアゴニストやアンタゴニストに対する応答が異なる。 例えば、α 受容体は phentolamine で阻害されるが、β 受容体は阻害されない。一方、β 受容体は isoproterenol で刺激され、propranolol で阻害されるが、α 受容体はこれらの作用を受けない。 哺乳類では、α 受容体と β 受容体は別組織に存在する。これらの受容体の、カテコールアミンに対する応答は異なり、正反対である場合も多い。α 受容体の細胞内効果は、phosphoinositide カスケード (α1 受容体) か、adenylate cyclase の阻害 (α2 受容体) で仲介され、皮膚、腎臓などの末梢器官に通じる血管壁平滑筋を収縮、消化管平滑筋を弛緩し、血小板の凝集を促進する。これに対し、β 受容体は adenylate cyclase を活性化し、肝臓や骨格筋でのグリコーゲン分解と糖新生の促進、脂肪組織の脂肪分解、気管支平滑筋の弛緩、骨格筋に通じる血管壁平滑筋の弛緩、心臓活動の増加をもたらす。 腺下垂体ホルモン (Adenohypophysis Hormone) には、オピオイドペプチド、エンドルフィンなどが存在する。 オピオイドペプチド (opiodpeptide) は腺下垂体 (adenohypophysis) が分泌する、モルヒネ様作用を示すポリペプチドである。オピオイドペプチドは、脳のオピエート受容体 (opiate receptor) に結合する生理的アゴニストである。オピオイドペプチドは痛覚や感情の制御に重要な役割を持つことが示されている。 31残基のポリペプチドホルモン。 β-endorphin: YGGFMTSEKS QTPLVTLFKN AIIKNAYKKG E 5残基のポリペプチドホルモン。β エンドルフィンの N 末端 5残基と同じ配列を持つ Met-エンケファリンと、5残基目だけが異なる Leu-エンケファリンがある。 Met-enkephalin: TGGFM 下垂体後葉の神経下垂体 (neurohypophysis) は、腺下垂体とは別組織である。神経下垂体は、バソプレッシン (vasopressin)、オキシトシン (oxytocin) という、2種類の相同ノナペプチド (nonapeptide; 9残基のペプチド) を分泌する。 バソプレッシンは抗利尿ホルモン (ADH; antidiuretic hormone) ともいい、血圧を上昇させ、腎臓に水を保持させる。バソプレッシンの放出は、血液浸透圧をモニターする浸透圧受容体によって制御される。 オキシトシンは子宮平滑筋の収縮を起こし、分娩を促す。アドレナリン受容体 (Adrenalin Receptor)
腺下垂体ホルモン
オピオイドペプチド (Opioidpeptide)
β エンドルフィン (β-Endorphin; β-END)
エンケファリン (Enkephalin)
Leu-enkephalin: TGGFL神経下垂体ホルモン
神経下垂体ホルモン (Neurohypophysis Hormone)
バソプレッシン (Vasopressin)、オキシトシン (Oxytocin)
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