- 造血細胞

造血細胞

造血幹細胞

動物に大量の X線を照射すると、造血細胞 (hematopoietic cell) が破壊されて血液細胞が産生されなくなり、数日で死亡する。しかし、X線を照射した個体に、免疫的に適合する健康な個体の骨髄細胞を移植すると生き延びる。このことから、骨髄中に造血幹細胞 (hematopoietic stem cell) が存在することがわかる。

骨髄細胞を各種の細胞表面抗原によって flow cytometry で分離し、各々の分画を X線照射個体に移植することで、造血幹細胞の分画が特定できる。造血幹細胞は骨髄細胞 1万個あたりに 1個程度の割合で存在する。造血不全のマウスに造血幹細胞を 5個注入しただけで造血系が再構築されたという報告もある。

1個の造血幹細胞が産生する細胞の種類を調べるには、遺伝的に標識された造血幹細胞を用いる。X線照射個体に標識された造血幹細胞を注入し、その後、造血組織、リンパ組織の細胞を追跡する。造血幹細胞は多能性 (multipotent) を持ち、骨髄球系とリンパ球系を含む全種類の血液細胞、そして造血幹細胞自身をも作り出すことがわかっている。

造血幹細胞の分化

造血幹細胞は複数の段階 (各種前駆細胞への分化) を経て最終分化に至る。造血前駆細胞 (hematopoietic progenitor cell) からは骨髄球系あるいはリンパ球系の 2種類の前駆細胞が生じる。

骨髄球系前駆細胞からは、赤血球、顆粒球 (好中球、好酸球、好塩基球)、単球、巨核球に最終分化する前駆細胞が生じる。単球からはマクロファージと破骨細胞 (そして一部の樹状細胞?) が生じる。巨核球からは血小板が生じる。好塩基球からは肥満細胞が発生すると考えられている。

リンパ球系前駆細胞からは、B 細胞、NK 細胞に最終分化する前駆細胞が生じる (T 細胞は胸腺で生じる)。

血液細胞の分化には様々な転写調節因子が関わっている。例えば、GATA-1 は赤血球の成熟に必須である (造血過程の早い段階でも働いている)。

Pax5 を欠損した動物では成熟 B 細胞が産生されない。正常な前駆 B 細胞は必ず B 細胞へと分化するが、Pax5 欠損細胞は T 細胞やマクロファージ、顆粒球などに分化する。つまり、Pax5 は B 細胞以外に分化する経路をオフにしていると考えられる (もちろん、B 細胞への分化を促進する働きもある)。

造血前駆細胞の意義

造血幹細胞の分裂頻度は少ないが、造血前駆細胞の分裂頻度は高い。方向付けされた前駆細胞 (committed progenitor cell) が早い速度で何回も分裂することによって、造血幹細胞は分裂による老化を回避することができ、かつ、大量の血液細胞を産生することができる。このような、幹細胞-前駆細胞-最終分化という過程は、表皮や消化管でも観察される。

造血幹細胞の維持

造血細胞は、特異的なシグナル・タンパク質を加えるか、シグナル・タンパク質を産生する細胞と共培養した場合に限り、培養系で生存、増殖、分化する (シグナル・タンパク質を除去すると細胞は死ぬ)。長期間維持するには、支持細胞との接触も必要となる。In vitro での造血を維持するには、骨髄造血細胞を骨髄ストローマ細胞の上で培養する。この培養系では、全種類の骨髄球様細胞と幹細胞を長期間 (数ヶ月〜数年) 生み出し続けられる。

幹細胞が幹細胞のままでいるためには、ストローマ細胞との接触で生じるシグナルが必要である (表皮の幹細胞が基底膜との接触によるシグナルで維持されているのに似ている)。ストローマ細胞からのシグナルには分泌因子と細胞表面接着因子の両方が考えられる。例えば、造血幹細胞も造血前駆細胞も膜貫通受容体である Notch1 を発現している。一方、ストローマ細胞は Notch リガンドを発現している。Notch の活性化は幹細胞や前駆細胞の分化を抑制する働きがある。

血液細胞の不足 (貧血)、生殖細胞の不足 (不妊)、色素細胞の不足 (皮膚の白斑) を示す変異マウスでは、受容体チロシンキナーゼ c-kit 遺伝子や、この受容体のリガンドである幹細胞因子 (SCF; stem cell factor) Steel 遺伝子に異常がある。これらの変異の影響を受ける細胞は全て、遊走型の前駆細胞から生じる。つまり、これらの前駆細胞が正常な子孫細胞を生み出すには、受容体 (Kit) を発現し、リガンド (SCF) を受容せねばならない。この系で働く SCF は膜結合型である。造血系では、Kit 受容体を発現する造血細胞と、SCF を発現するストローマ細胞との接触が必要となる。

CSF (colony-stimulating factor)

幹細胞の維持はストローマ細胞との接触を要するが、分化の方向付けされた前駆細胞の増殖にはその必要がない。したがって、1個の前駆細胞が数千個の最終分化細胞のクローンを生産する様子は、寒天などの半固形培地上でコロニーとして観察できる。この培養系を用いて、各種造血因子の解析を行うことができる。これら造血因子は糖タンパク質で、コロニー刺激因子 (CSF; colony-stimulating factor) と呼ばれる。CSF には、血中を循環してホルモンとして作用するもの、骨髄で局所的に分泌される仲介物質、細胞接触を介して膜結合シグナルとしてはたらくもの、などがある。

Erythropoietin

血中の酸素や赤血球が不足すると、腎臓の細胞が刺激されて erythropoietin を増産して血中に分泌する。血中の erythropoietin 濃度が増加してから 1〜2日後には、新生赤血球が血中に出てくる。この速度から逆算して、erythropoietein は成熟赤血球に近い段階にある前駆細胞に作用していると考えられる。

骨髄細胞を erythropoietin 存在下で培養すると、数日後には 60個ほどの赤血球からなるコロニーが得られる。このコロニーは 1個の赤血球前駆細胞から生じたものである。ヘモグロビンを持たないこの赤血球前駆細胞は、赤芽球コロニー形成細胞 (CFC-E; erythrocyte colony-forming cell) と呼ばれ、6回以内の分裂で成熟赤血球を生じる。CFC-E はさらに初期の前駆細胞から生じるが、この過程は erythropoietin に依存しない。CFC-E の生存や増殖は erythropoietin に依存しており、erythropoietin 非存在下では、CFC-E はアポトーシスを起こす。

IL-3 (interleukin-3)

IL-3 (interleukin-3 は、CFC-E の前段階にある細胞の生存と増殖を促進する。骨髄細胞を IL-3 存在下で培養すると、7〜10日後には 5000個の赤血球からなるコロニーが得られる。このコロニーは 1個の赤芽球バースト形成細胞 (BFC-E; erythrocyte burst-forming cell) から生じたものである。BFC-E は増殖能力が限られ、多能性はなく、赤血球しか生じない。BFC-E は erythropoietin に感受性がなく、成熟赤血球になるまでに 12回の分裂を要する点で、CFC-E と異なる。

GM-CSF (granulocyte/macrophage colony-stimulating factor)