- キメラマウス

2013/05/17/Fri.キメラマウス

遺伝子改変マウスを作ろうとしている。その過程で、未受精卵から胚盤胞 blastocysts に至る初期胚を、初めて我が目で見ることになった。非常に神秘的なものである。(結果として)いたずらに破壊してしまったときに覚える嫌な感じは、マウスを殺す際に抱くそれと似ている。

ここで私が述べている「神秘的」「嫌な感じ」は、研究者でない人たちの感想と少しく異なるとは思う。当然、私は以下の作業を冷静に行う。

雌マウスの腹に注射針を刺して排卵ホルモンを投与し、雄マウスと交接させた翌朝に膣口を覗いて受精を確認した二〜三日後、卵巣と子宮を摘出して卵管から受精卵を洗い出し、それらに極細ピペットを突き立て、あるいは酸で膜を溶かして ES 細胞を取り込ませ(この過程で幾つかの胚を棄損してしまう)、その胚を、輸精管を焼き切って去勢した雄マウスと交合させ偽妊娠した雌マウスの脇腹から引きずり出した子宮に移植すると、上手くいけば遺伝的にまだらな自然界には存在しないキメラマウスを得ることができるが、大部分は着床せずに流産してしまう。

この種の行為を、科学者ではなく一個の人間として、と同時にその科学的意義を踏まえてどう考えるか。これは私自身が悩み続けねばならない課題である。いつか煩悶が消え失せる日が来たとしたら——、それはこの仕事を辞めるときである。私は勝手にそう決めている。もちろん、他人のことは知らない。

来週は、遺伝子改変マウスでノーベル賞を受賞した Mario Renato Capecchi 教授の講演がある。是非聴講したい。