- 気付き

2012/11/16/Fri.気付き

ES 細胞に何らかの遺伝子や薬剤を加え、望む細胞系統への分化を促進する——。この種の操作を施したとき、実際には何が起きているのか。私はただ何となく、ある系統への発生学的なプロセスが亢進されているのだと思っていた。しかし違うのかもしれない。非常に未分化な細胞間での direct reprogramming が起こっているのかもしれない。

(ES 細胞に因子 X を加えて培養したら、中胚葉マーカーを発現する細胞の割合が増えたとする。X は ES 細胞から中胚葉への分化を促進したのかもしれないし、内外胚葉を中胚葉へと transform したのかもしれない)

だが、いわゆるところの「発生学的なプロセス」や "direct reprogramming" が何なのかというと、上手く説明することができない。両者に本質的な差異があるのかどうかも謎だし、何をどのように検出・比較すれば良いのかもわからない。

この問題については一度、自分が抱いている概念の徹底的な脱構築が必要であると感じている。

例えば、多くの言説で「中胚葉」という言葉が何の検討もなく使われている。「中胚葉」という文字から複数の矢印が伸び、その先に心筋や骨格筋が描かれている図は、教科書や総説で目にするところである。この枠組みが当たり前になってしまうと、「中胚葉」というただ一種類の細胞が存在するかのような錯覚に陥ってしまう。

冷静に考えれば、中胚葉は region の名称であり、細胞種の名前ではない。中胚葉には様々な種類の細胞が含まれているはずである。それでは、中胚葉にはどのような細胞が存在するのか、それらはどのような性質を持ち、いかなる振る舞いをするのか。そして、どれほどのことが報告されているのか。

私はよく知らない。知らない、ということに気付く。多くのことの気付かねばと思う。