- Spy

2012/09/08/Sat.Spy

快晴涼風。Dr. AA に御礼送信。長旅の疲れで身体が軋む。按摩六十分。麦酒。洗濯。

松本清張『昭和史発掘 3』「スパイ "M" の謀略」再読。スパイにも色々あるが、M は 007 のような諜報員ではなく、内部協力者いわゆる Deep Throat である。『ゴルゴ13』第298話「情報漏洩源 ディープ・スロート」の冒頭には、「情報活動において、高い地位にいて重要な情報を流す裏切り者、の意」とある。

Deep Throat(あるいは二重スパイでも良い)は、単純な裏切り者ではない。彼らは裏切りの効果を最大にするため、裏切るべき組織にますます奉仕貢献しなければならない。後年自らが犯すために手塩にかけて若紫を育む光源氏のごとき振る舞いともいえる(実際、若紫は源氏に「裏切られた」かのような感想を当初は抱く)。これは実に倒錯した背徳的行為で、考えようによっては甘美ですらある。加えて、危険に見合った見返りが得られるとなれば、脳内の報酬系が活性化されない方がおかしい。蠱惑的な境遇であるといえよう。

にも関わらず、スパイの末路は大抵悲惨である。スパイ行為が露見して捕縛された場合は当然だが、任務を全うした者も、心に闇を抱えたまま、世間に出ることなくひっそりと暮らす例が多いようである。大金を手にして余生はウハウハ、という話は目にしたことがない。

素人の推測だが——、スパイという行為に後ろめたさを感じる者が、良いスパイになるのではないか。その後ろ暗さが彼の行動を慎重にし、計画を緻密にする。スパイに最も必要とされる能力は、大きな情報を取ってくることではない。スパイであり続けることであろう。スパイを運用する側になって考えてみればわかる。