- 夢の国(二)

2012/03/30/Fri.夢の国(二)

「次回の日記では、僕が夢で見た国の話を書こうと思う」と書いてから半年近くも経っていることに驚いている。もっと最近のことだと思っていた。というのも、今日まで頻繁に「夢で見た国」のことを考えていたからである。

その国——というより、真に unique なのはその国が存在する大陸なのだが——について妄想を働かせている間に、それを触媒する二つの出会いがあった。一つはジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』 であり、もう一つは Skyrim である。前者はその国が発展していく歴史について、後者はその国と人々の文化について、それぞれ想いを巡らす機会を提供してくれた。

私がまず考えていたのは、特異な形状のその大陸が、実際に生じ得るのかどうか、そして形成されるのなら、どのような自然地理(地形・天候・生物)を有するのかであった。地学に疎いので SF 的な説明しかできないが、それでも「こうなるであろう」という演繹を繰り返すうちに、やがて奇妙な光景が顕れてくるから面白い。

一つ例を挙げる。その大陸は、中央部に巨大な湖ないし内海を抱えているはずである。内海は河と繋がっているが、この河は不定期ながらも周期的に「逆流」する。すなわち水は、あるときは河から内海に流れ、あるときは内海から河に流れる。このような水流は周辺の地を肥沃な沖積平野とし、それこそナイル川ではないが、農耕社会の発祥地としての役割が期待される。内海と接続している河川は複数あるはずであり、同時多発的に文明が発展する可能性も充分にある。

これらの河を眺めながら暮らす人々は何を想うだろう。内海に入り、また逆に内海から出ていく水の流れから連想されるのは、心臓を中心とする循環器系である。生理学を知らなくとも、心臓が重要な臓器であることは誰にでもわかる。河の間近で生活する彼らの間に心臓信仰が生じたとしても不思議ではない。

別の理由から彼らは、彼らの住まう大地が「天から落ちてきた」という創世神話を語り継いでいるはずである。この大地は内海=心臓を持っていることから、天から落ちてきたというよりは「産み落とされた」と理解することもできる。また一般的に、大地は「生きている」と解釈されているであろうことは想像に難くない。このような世界観は、彼らの間に発生するであろう宗教に大きな影響を与えるはずである。

その国の人々全てがその大陸の特異な形状を初めて認識するのはいつであろう。それは恐らく、大陸全土が一つの国家によって統一されたときである。ここで思うのは、その国の地理誌の発展は、その国そのものの発展(主に膨張)の歴史とほぼ同義であるということである。日本人にとっての日本列島は、ときの政府が支配していた範囲に他ならない。だからイザナギとイザナミは北海道を産んでいないし、間宮林蔵が調査するまで樺太が島であることもわからなかった(ちなみに間宮海峡は日本人の名が地理に冠せられた唯一の例である)。

したがって、大陸に住まう人々がその大陸の地理を把握していく過程は、その大陸が一つの国によって統一されていく過程、あるいは大陸を分割する複数の国々の間で比較的平和裏に交流が行われていく過程に転化できる。大陸の地理を、それが理解されていく時間的経過に従って叙述すると、それは同時に大陸の歴史にもなり得る。——ということを考えた人がその国に出現したとしてもおかしくはない。

彼が書いた地歴史を読んだ者は、当然の疑問を覚える。この大陸はいかに形成されたか、そして、この大陸の外の世界はどうなっているのか。冒険の物語がこのあたりから始まってもおかしくない。それは単純な探検であるばかりでなく、知識欲求の旅でもある。科学技術の推進や哲学的な問い掛けも含まれるであろう。それらを正しく描写するには、彼らがその時点で持つおよそ全ての社会構造をあらかじめ決めておかなければならぬ。……ということで、妄想もこのあたりで頓挫している。