- Diary 2009/05

2009/05/27/Wed.

今日のタイトルは The Beatles の "Lady Madonna" から拝借した T です。こんばんは。

研究日記

研究員君の投稿論文に対する返事が来た。Reviewer 2 からは minor comments だけだったが、reviewer 1 には色々と注文を付けられていた。追加実験が必要な指摘は少ないように思うが、果たして文章だけで納得させることができるか、いささか心許ないような気もする。

2009/05/25/Mon.

哺乳類の primary culture やサクリファイスは肉体的にも精神的にも疲れる T です。こんばんは。

研究日記

心筋細胞の preparation を行った。心筋は基本的に分裂しないので、細胞株 (無限に増殖する癌化細胞) が存在しない。したがって、動物から取ってきて初代培養をするか、幹細胞を分化させるかしない限り、心筋細胞を拝むことはできない。後者はもっぱら目的、あるいは結果として作製されるのであって、手段として用いられることはない。心臓の研究に用いられるのはあくまで初代培養細胞である。

我々のラボでは新生児ラットの心臓を材料にする。成体の心筋細胞は培養後の生存率が芳しくないので、生後 2 日程度の新生児を用いる。マウスを使えば様々な遺伝子改変モデルを利用できるが、マウスの新生児、ましてやその心臓ともなるとあまりに小さ過ぎて、実験に必要な細胞の量と質を安定して得るのは難しい。そこでラットの新生児となる。この系は多くの研究室で運用されている。培養心筋細胞の論文を繙けば、"neonatal rat cardiomyocytes" の文字を見付けることができるだろう。

今日は 2 日齢のラット 20 匹から心臓を摘出した。ラット新生児の全長は 100 円ライターほどである。その背中を左手で鷲掴みにして腹側を顕にする。鋏の切っ先を胸皮膚に入れてやると、背中に思いきり引っ張られている表皮が自然に裂け、頼りない筋肉が露出する。薄い胸の下で拍動している心臓の位置を確認したら、そこを少し切ってやる。固まりきっていない肋骨は簡単に切断される。傷口から心臓が——拍動しながら——飛び出してくるので、心室側をカットして PBS に浸ける。開胸場所が悪いと、白っぽい肺や、黒っぽい肝臓も一緒に出てくる。出血も多くなる。こうなると、己の手技の拙さに申し訳ない気持ちになる。心臓を摘出した後のラットは、動物の死骸用の冷凍庫に入れる。因果な作業である。

摘出した心臓を酵素で処理すると、心臓の細胞 (心筋細胞、線維芽細胞、血管細胞、血液細胞など) が剥離してくる。これらを dish で culture すると、翌日には心筋細胞が拍動している様子を見ることができる。当たり前のことだが、この心筋細胞は生きている。実に——、神秘的なことだと思う。神経でも内臓でも皮膚でも同じことだが、心筋細胞はその拍動によって、「生きている」ことが誰にでもわかる。魅せられる所以である。

感謝。

2009/05/24/Sun.

iPod touch を買ってきた T です。こんばんは。

5 月 23 日 (土)。午前中はラボへ。特任助教がまたアメリカに戻るので、不在中の仕事について打ち合わせ。帰宅して昼寝後、夕方から再びラボへ。実験が終わってからタコス屋で呑んでいたら、別階の研究グループ 2 つが合同でやってきた。

今日は昼に蕎麦を食べてから買い物に出かけた。就職活動のときに購入し、錆びるまで使った安いタイピンが失くなってしまったので新調した。それにしても、このタイピンから垂れ下がっている鎖と輪はどのように使うのだろうか。謎である。

iPod touch を購入した。俺は音楽を聴きながら何かをする習慣がないので、携帯プレーヤの活躍の場は少ない。iPod touch ならネットにも接続できるし、ゲームもできる、画像や動画も観ることができる……というが、俺の生活においてそれらは PSP の役割となっている。それでも買ってしまったのは、月曜日に行う (そしてこれからも定期的に行う) primary culture が、長時間の単純作業にも関わらず席を立つことが許されない仕事だからである。音楽でもないと、とてもじゃないがやっていられない。今日はとりあえず The Beatles の全アルバムを取り込んだ。頭から順番に聴いても 10 時間あるので、何とかなるだろう。

夜はラボに行って、明日の実験の準備と新テクニシャン嬢の仕事を用意した。

2009/05/22/Fri.

疲れ気味の T です。こんばんは。

研究日記

Coauthor になっている論文について、reviewer に対する response を少し書いてボスに送信。来週には resubmit されるだろう。良い返事が来てほしい。

午後から医学部のラボにて、テクニシャン氏に心筋の primary culture を教わる。来週、この系を研究ユニットで立ち上げねばならぬのだ。氏の熟練の技はいつ見ても気持ちが良い。俺に同じことができるだろうか。無理な気がする。まァ最初は練習で……、と言えるのも学生まで。と思ったが、よく考えれば俺は学生だった。

22 時まで primary culture を教わり、お土産として、余った cardiac fibroblast まで頂戴した。これはこれで使い途があるのだ。その後、特任助教、ポスドク氏と焼き鳥屋へ。日付が変わってから帰宅。

2009/05/21/Thu.

子供の頃はよく「めばちこ」ができた T です。こんばんは。

「めばちこ」は関西弁だろうか。「ものもらい」の方が一般的かもしれぬ。「めばちこ」はよくわからぬ言葉である。目にできるから「目ばちこ」だと思うのだが、では「ばちこ」とは何か。「ざこば」や「べかこ」のようなものか。桂ばちこ。良いかもしれない。あるいは昨今、ひらがな 4 文字のアニメや漫画が多いというから、『めばちこ!』なのかもしれぬ。

やたらと「品格」が求められているが、品格の前に実力を身に付けるべきだろう。力がないのに品も格もあるか。衣食足りて礼節を知るという。人品骨柄を云々するのは、いっぱしの人間になってからで良いのではないか。

研究日記

昨日に引き続き、学会でポスター発表をしてきた。ドサ回りのような学会だが、英語でプレゼンテーションする練習にはなる。

今日は M 先生、S 科の K 助教、研究員君なども発表だった。M 先生と研究員君は東海に行き、K 助教は大学に帰ってしまい、俺は新しい研究ユニットに出向しているので、会う機会は減っている。

K 助教の論文が返ってきたという。厳しい内容らしい。Authorship について特任助教がゴチャゴチャと言っておる。今になって何故この人がしゃしゃり出てくるのか、さっぱり理解できない。

缶チューハイを呑んだだけで肩が痛い。今日は早めに休もう。

2009/05/20/Wed.

インフルエンザより花粉症の方が脅威だと思う T です。こんばんは。

研究日記

学会で京都国際会議場に行ってきた。Asian-Pacific の集まりで、日本人と外国人の参加者が半々程度だった。最近ではこのような学会も多い。

夕方にポスター発表をした。座長は日本人とオーストラリア人で、質問が多く active なセッションだったが、豪語には少しマイった。

国際会議場には地下鉄に乗って行く。いつも川端から今出川をテクテクと烏丸まで歩くのだが、ひょっとして鞍馬口の方が近いのではないかと思い立ち、俺の好きな下鴨神社を抜けて東鞍馬口を歩いてみた。距離は今出川と大して変わらぬようだが、暢気な路が気に入ったので明日も歩こうと思う。

2009/05/19/Tue.

ラボに転がっているマスクを、インフルエンザが蔓延している大阪に売りに行こうかと考えた T です。こんばんは。

研究日記

5 月 16 日 (土)。朝から仕事。午後は LEGO を買いに出かけた。前回前々回と同じシリーズで、この日は "Race Rider" を購入した。親に LEGO をねだっていた 20 年前のことを思うと信じられないペースである。そして、それよりも恐ろしいのは、購入を重ねるたびに感動が激減することである。「今日のキットは前二者に比べるとイマイチだな」などと偉そうに批評しておるわボケ。とても哀しい。

5 月 17 日 (日)。夕方から仕事。2 本目の論文の proof を校正して publisher に PDF ファイルを送信した。PubMed に index されればこの仕事も終わる。

5 月 18 日 (月)。実験や学会の準備など。夜は病院に行き、ボスと 3 本目の論文を書き直した。普段はメールでやり取りしているが、submission 直前には面を突き合わせて discuss しながら文章を練る。どれだけ通信手段が発達しても、こういう作業はなくならない。論文を仕上げた後、ボスと呑みに行った。体調が芳しくないのか、ボスが早めに切り上げたのが気になった。

5 月 19 日 (日)。大学の研究ユニット (俺が今春から出入りしている施設) のシンポジウム。朝イチで特任助教が発表。昼休みに 3 本目の論文を CR 誌に submit した。午後からはシンポジウムのタイムキーパーを仰せつかっていたので、ストップウォッチで時間を計り、チンチンとベルを鳴らす。途中で飽きたので居眠りをしてしまう。ベルは特任助教が代わりに押してくれたようだ。夕刻に抜け出し、明日からの学会の準備と、新テクニシャン嬢の実験の下準備、細胞の培養などを行う。無駄に慌ただしい。落ち着いて研究に専念したいという想いは日に日に強くなり、それが留学願望を増幅する。留学したからといって研究に集中できる保証はどこにもなく、これが一種の逃避思考であることはわかっている。

数日分の日記をまとめて書くという悪い癖ができてしまった。書きたいことは沢山あるし、改めたいとは思っている。日記を書く時間 (= 落ち着いて物事を考える時間) は毎日確保したいものだ。何もない地層から石油が湧いてくることがないように、天から無償でアイデアが降ってくることもない。持続的な思索だけが何かの拍子に閾値を越えることができる。

2009/05/15/Fri.

今週は再び花粉症に苦しめられた T です。こんばんは。

研究日記

5 月 13 日 (水)。特任助教と 2 人で呑みに行く。これまでのこと、これからのことについてざっくばらんに話し合う。随分と呑んだ。日付が変わってからタクシーで帰宅。

5 月 14 日 (木)。ボス、特任助教、新テクニシャン嬢、ポスドク氏、秘書女史と会食。和やかな雰囲気で雑談。特任助教とタクシーで帰宅。

5 月 15 日 (金)。まだまだ完璧に work せぬ実験が多い。場所を変え、試薬を変え、機械を変えたのだから仕方ないことだが、やはり苛立つ。助教の O 先生が、留学待ちの研究生 (MD, PhD) を連れて来訪。俺も共同研究の相談を陪聴する。ラボの環境がなかなか落ち着かぬ。ポスドク氏と蕎麦屋へ。帰宅したら 2 本目の論文の proof が届いていた。

「競争の激しい研究」というのは、裏を返せば「俺がやらなくても誰かが行う研究」でもある。理想をいえば、基礎研究は競争するものではなく独走 (= 独創) するべきものだ。

「資金が得られる研究」というのは、裏を返せば「既存の価値観で判断できる内容の研究」でもある。理想をいえば、基礎研究は社会的な価値判断から超越しているべきだ。

しかし、だからといって今すぐ競争や集金から離脱できるものでもない。リタイアできるのは勝利した者だけである。勝利なきリタイアは単なる敗北に過ぎぬ。

「出世に興味がない」という人が研究者には多いが、そういう人間が本当にやりたいことは、出世しないとできないことが多い。

どう考えても不毛です。本当にありがとうございました。

今日のニコニコ動画

2009/05/12/Tue.

GW に購入した高価なヘッドホンに満足している T です。こんばんは。

5 月 8 日 (金)。今年度の学振科研費の内定通知が届く。満額 100 万円で申請したが、実際に交付されるのは 70 万円になるという。科研費の交付額は申請額の 7 割が相場なので、予想通りの額ともいえる。秘書女史に尋ねてみたところ、比較的自由に使えるようなので、有効に利用したい。大切なことなので何度でも書くが、研究費の財源は税金である。自分の責任で行使する初めての研究費を浪費はするまい。

5 月 9 日 (土)。元テクニシャン K 嬢の結婚式・披露宴が、晴天の神戸で行われた。結婚式は、我が弟のそれと似たようなキリスト教形式だった。披露宴では、新婦主賓として祝辞を述べた。本当はボスが挨拶する予定だったが、何故か俺にお鉢が回ってきた。代わりにボスは乾杯を発声することになったが、酒を飲まない者が乾杯の音頭を取るのもおかしな話である。元テクニシャン S 嬢、研究員嬢、元隣の研究員嬢、元大学院の K 先生 (今年度から S 科の助教)、隣の研究補助員女史と一緒に宴を楽しんだ。お幸せに。

5 月 10 日 (日)。GW に買ったばかりだというのに、新たな LEGO を買う。やはり "3 in 1" のシリーズで、"4993 Cool Convertible" という製品である。このシリーズの特徴として、LEGO でお馴染みの人形が付属しないことが挙げられる。これは画期的なことである。人形を排除することでスケールの呪縛から解かれ、(人形に比べて) オーバースケールゆえの精密なディティールが実現できる。素晴らしい。

5 月 11 日 (月)。大学の教授が昨秋に退官されたが、その跡を准教授が襲うこととなり、5 月から正式に着任となった。その現教授と面談した。俺は医者ではないので、「研究を頑張ってくれ」という話に終始した。「生活は大丈夫か」「修了後はどうするのか」という質問もあった。良くも悪くも医学部の教授はボス然としていて、社会的に頼もしい。学振特別研究員の正式採用の通知が届いた。卒業までは迷惑をかけずに研究をすることができるだろう。

5 月 12 日 (火)。留学されていた先生 (以後「特任助教の先生」と書く) は 9 日に帰国していたが、本日からラボにも出てきた。ボスから、俺も coauthor に入っている論文の修正を依頼される。こういう仕事もコツコツとこなして、共著論文の数もある程度は稼がねばならぬ。上手くいけば、今年も去年と同じくらい publish できるだろう。卒業後に留学するなら、来年の今頃に申請書を出さねばならぬ。いくら業績があっても足りない。

2009/05/08/Fri.

GW はよく遊んだ T です。こんばんは。

5 月 2 日 (土)。午後に帰省。眼鏡を新調するべく弟に検眼してもらう。新しいフレームも選んだが、レンズがなかったので完成は翌日に持ち越し。夕刻より、にはふ兄と酒盛り。あれこれと近況を伺う。夫人が懐妊されたという。大兄が父になるなどチャンチャラおかしくて爆笑する。今年こそは多群兄、ジョー兄と呑みたいとも言っておった。諸兄に伝言を頼まれたのでここに書いておく。

5 月 3 日 (日)。終日弛緩。両親、父方の祖父母、弟夫婦、伯父一家と晩餐。少し前に中学生になった従妹が早くも三年生だという。

5 月 4 日 (月)。夜、韓国風の焼き肉屋にふらりと入る。なかなか旨い。こういう形で良い店と出会うと嬉しくなる。

5 月 5 日 (日)。妹と大阪で遊ぶ。これで GW 中に母方の祖父母を除く家族全員と会ったことになる。近年稀に見る快挙だ。天王寺まで足を伸ばし、串カツを食べる。以前にも食べたが旨いものである。妹は仕事が大変そうであり、少しく心配を覚える。仕事が楽しくて一所懸命にやっている内はなかなか気付けないかもしれないが、本当に重要なのは心身公私のバランスであり——、などという偉そうなことはもちろん口にしない。兄として妹の健勝を陰ながら祈るばかりである。

5 月 6 日 (月)。アホほど買い物をする。普段は滅多にしないことなので、奇妙な爽快感を覚える。十数年ぶりに LEGO を手にした。"6745 Propeller Power" というキットで、部品を組み換えることで 3 つのビルドが楽しめる "3 in 1" というシリーズの一つである。俺の知らない間にパーツも進化しており、そのディティールと組み合わせの妙に驚嘆する。これで 3000 円は安過ぎると思ったが、上記サイトを見る限り、実は 20 USD で買えるらしい。配達してくれるのなら通信販売で買うべきだろう。

2009/05/02/Sat.

今日から帰省する T です。こんばんは。

皆様もよい GW を。

研究日記

4 月 29 日 (水)。駅のホテルにて M 先生昇進祝賀会が開かれた。祝賀会に先立つ講演会で雑用を少々こなす。大学・病院の関係者を中心に、参加者は約 80 名ほどであった。盛会の内に終了。オーガナイザーたるボスの心の砕きように半ば呆れ、半ば感心する。部下のためにここまでできる人はなかなかいない。

5 月 1 日 (金)。元テクニシャン S 嬢が帰京しているので、元テクニシャン K 嬢、研究員嬢、新テクニシャン嬢、元隣の研究員嬢と一緒に焼き肉を食べに行く。食事後、ゲームセンターで遊ぶ。レーシング・ゲームでの対戦が面白かった。菓子をシャベルですくって落とすゲームにもかなり投資した。S 嬢の戦利品を幾つかおすそ分けしてもらって帰宅。

今日は帰省後、眼鏡を新調してから、にはふ兄と呑む予定。5 年前に会った記録はあるが、その後、一度我が地元で呑んだ記憶もある (しかし日記が見当たらぬ)。いずれにせよ久し振りである。楽しみなことだ。