- 2009 年度開幕

2009/04/01/Wed.2009 年度開幕

社会人ではなくなった T です。こんばんは。

研究日記

2009 年度が始まった。やるべきことに変わりはないが、書類上の身分に変更があったので記録しておく。

昨日で病院の職を辞し、本日からは日本学術振興会 (学振) の特別研究員 DC2 (大学院生用) となる。特別研究員には研究費の他に、研究奨励金が支給される。これは返還の要がない奨学金のようなものであり、給料ではない。学振と特別研究員の間には雇用関係はない。したがって、本日から俺は正真正銘の学生であり、いわゆる社会人ではなくなる。何となく気楽である。

以下は特別研究員制度、特に PD (ポスドク用) に対する疑念である。

特別研究員になった者は職に就くことができず (就いた場合は特別研究員を辞さねばならない)、この制度以外の研究費申請もできない。前者はともかく、後者の規定は致命的である。一種の飼い殺しではないのか。PD に支給される研究費は 150 万円/年を上限とするが、これは大した額ではない。例えば、文部科研の若手と萌芽は重複して申請することが可能だが、両者とも採択されれば上限 1000 万円/2 年ほどになる。他にも民間企業を含む各種団体の研究助成が多数ある。しかし学振特別研究員は、それらのどれにも申請することができないばかりか、他の研究者が主宰するプロジェクトの共同研究者になることすらできない。

また、PD の配属先は、原則として出身研究室以外のラボしか認められない。これは人材の流動性を高めるためと説明されるが、それが無条件に良いことであるかは疑問が残る。これまでのラボで行ってきた研究をさらに発展させたいとき、あるいはこれまでの結果によって研究費の獲得が見込めそうなとき、学振という選択肢は制約が多過ぎる。

学振は特別研究員の理念を次のように謳う。

「特別研究員」制度は優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与えることにより、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的として、大学院博士課程在学者及び大学院博士課程修了者等で、優れた研究能力を有し、大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する者を「特別研究員」に採用し、研究奨励金を支給する制度です。

(特別研究員 - 日本学術振興会)

とんでもない悪文で書かれた上記の目的を達成するには、PD に支給される研究費・研究奨励金は低額に過ぎないか。「我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者」にとって魅力的なプログラムではないと思う。本当に優れた博士はまず学振には応募しない、という現象もないではない。何となく中途半端な制度なのである。

色々と書いたが、大学院生用の DC は良いプログラムだと思う (自分が貰うものなので一応フォローしておく)。また、俺のような半端者にとって、PD が登竜門的な制度であることに変わりはない。1 年後、申請書を書いているかもしれない。

ただ、科学に関心のある 1 人の市民として見たとき、学振特別研究員という制度は、天才を育てるのではなく秀才を支援するという色合いが強く、極めて日本的な制度であるという感想が強い。日本で最も有名な若手研究者プログラムとしては、いささか寂しいものがある。世界に通用する業績を持っている人は、どのように考えているのだろう。