- Cardiovascular Research

2008/09/04/Thu.Cardiovascular Research

必要があって血管内皮の勉強をしている T です。こんばんは。

単語に慣れない。"arteriosclerosis" (動脈硬化) と "atherosclerosis" (粥状動脈硬化) なんて、パッと見てもすぐにどちらか判別できない。この例に限った話ではないが、病名って難しいよな。

研究日記

それにしても血管の論文、多過ぎだろ。Reference を辿っていたらエラく時間を喰ってしまった。

心血管 (cardiovascular) などと一言でまとめられることも多い心臓と血管だが、細胞レベルの研究における実態は大きく異なる。

血管を構成する内皮細胞および平滑筋細胞ともに、広く使われている優秀な培養細胞株が数多くある。まずこれが羨ましい。また、患者から血管細胞を採取することも比較的容易である。血管は、身体中のあらゆる場所、つまり全ての臓器に存在する。心臓の血管、脳の血管、肺の血管、肝臓の血管——、それぞれに固有の問題があると同時に、共通のシステムで動いてもいる。そして血管を流れる血液。これまた非常によく研究されている分野であり、もちろん血管系とは切っても離せない関係にある。血管の研究は幅広く、奥深い。血管再生、血管新生、人工血管などなど、興味深い話題に事欠かない、古くて新しい学問分野でもある。

心臓、特に心筋細胞の研究は難しい。心筋細胞は増殖しないため、培養細胞株のようなものはない。心筋細胞の実験をしたければ、新生児ラット (あるいはマウス) の心臓を酵素でバラバラにして初代培養 (primary culture) をする他ない。実験を始めるたびにこの作業が必要なのだ。系を安定させるだけでも大いに苦労するし、マン・パワーが要る。細胞生物学、分子生物学を心筋細胞で行う上で、これが最大のネックであろう。

心臓は重要な器官である。重要過ぎるため、発生学が困難である。心臓に関係のある遺伝子を調べようと思って reverse genetics の手法を使えば、個体は心臓に異常をきたして死んでしまう。心臓に関係のある遺伝子を取ってこようと思って forward genetics の手法を使えば、心臓に異常をきたした個体は生まれてこないので同定できない。どうやって調べろというのか。まァ、これは半分冗談だけど。

もちろん心臓は心筋細胞のみで構成されるわけではない。血管も含まれるし、血液も流れている。間質細胞もあるし線維芽細胞もある。一度悪くなってしまったこの複合的なシステムを、——しかも死んでしまった心筋細胞は蘇らないという重荷を背負って——、劇的に改善するのは至難である。この困難は、そのまま心臓疾患の脅威に等しい。だからこそ研究費も下りるわけだが、しかしこれは、心臓疾患に投じられている膨大な医療費の反映でもあるんだよな (金を喰う病気の研究はやはり振興されやすい)。

心血管系は競争の激しい分野でもあるから、胡散臭い研究も少なくない。そんなアレヤコレヤも含めて、面白いフィールドだとは思っている。