- 城壁に囲まれたその街では死者を剥製として祀る習慣がある

2008/08/29/Fri.城壁に囲まれたその街では死者を剥製として祀る習慣がある

結局は出歩かなかった T です。こんばんは。

城壁に囲まれたその街では死者を剥製として祀る習慣がある。かつてはどの家でも全身の剥製を特別の部屋に安置していたものだが、街が拡がり人が増えるにつれて死者が占める空間は次第に割愛されるようになり、今では頭部のみを棚などに陳列する簡便な形式を採る家が多い。それでも富裕な家では、蝋人形館のように生前の暮らしを再現した形で剥製を飾り立てており、それがまた経済力の証ともなっている。

家の中でも特に優秀だった者、出世した者、愛された者の頭部は屋上に祀り立てられる。街の建物の屋根は四角錐台になっており、その天面には故人の業績や言葉を彫り込んだ石造の墓標が据えられる。剥製の頭は墓標の上に固定され、死後も街を見渡しながら家の者を守護するのだ。

屋根に祀られるのはその家の中から一人のみと決まっている。遠い過去に傑出した人物を輩出した家ではずっと同じ頭が祀られることになる。風雨に晒された古い剥製は襤褸のようになって原形を留めていないこともあるが、それはその人物がいかに偉大であったかの証左でもある。少なくとも老人達はそのように考えている。口さがない若い連中は、あの家に何代も傑物が現れなかっただけさと毒を吐く。この感想の違いは、自らが剥製になるまでの予定時間と概ね一致する。もうすぐ剥製になるであろう老人は、頭が家に飾られるような人間になることの難しさを身をもって知っており、一方若者は、いずれ真新しい自分の剥製が我が家の古ぼけた頭に取って代わるに違いないという夢想を好む。

——という夢を見た。面白かったので、また続きが見たい。

夏休み 3日目。昼夜逆転の末、本日も引き篭もり。

文庫版『ローマ人の物語』の発売日が 9月 1日とあったので大人しく待っていたのだが、実はもう売っているらしい。買いに行けば良かった。

以前から疑問なのだが、昼夜を逆転させるのは簡単なのに、夜昼を再逆転させて元に戻すのはどうして困難なのだろう。