- 負け国

2008/05/09/Fri.負け国

日本が大好きな T です。こんばんは。

教育の現場では monster parents が問題になっているようだが、医療の現場にも monster patients とでもいうべき難問が存在する。病院、特に官立のそれに訪れる患者のかなりの割合を、老害と DQN が占める。彼らが病んでいるのは肉体ではなく精神である場合が多い。病院をホテルか何かと履き違え、医師看護師技師などに対して尊大に振る舞うばかりか、肉体的・精神的な危害まで及ぼす。このような輩にも膨大な医療財政が投じられる一方で、医師看護師技師などの待遇は一向に改善されず、高度に専門的な知識と技能を持つ彼らは、愚昧な連中に散々振り回された上でようやく、その働きに比して低過ぎると思われる賃金を手に入れる。

そこで医者は可能ならば開業するか、さもなくばできるだけ楽な科に行くことを考える。某大学では大学院生の過半が眼科と皮膚科に集中したという。看護師技師は主婦を夢見る。看護学校卒業生の看護師就職率は年々下がり、防衛大学卒業生の自衛隊入隊率も減少の一途を辿っている。医師や看護師や自衛隊に魅力がないわけでは決してない (そうでなければ、そもそも医学部や看護学校や防衛大学には入らない)。目指す職業の現状が剣呑に過ぎるから避けられる。原理的に転向組に非があるはずはないのだが、奇妙なことに不思議と叩かれる。

基礎研究に携わる俺は立派なワーキング・プアだが、仕事の内容は自然の秘密と戯れることであり、医師看護師技師などが直面するようなストレスとは全く無縁である。——かというとそうでもない。現代は「プロ市民」という名のアマチュアが暇を持て余してプロを監視する時代である。プロ市民を名乗るアマチュアは、専門的には無意味としか言い様のない規制を要求して自分が特別な存在であるかのような幻想を貪るという生態を持つ。この外来種突然変異体によって幾つかの職人的専門種が絶滅へと追いやられた。

以下は些細な一例である。どこの研究施設でもゴミの分別は義務付けられている。実験室では、ゴミの分別はサイエンティフィックな観点から適切に処理される。同じシリンジ (注射筒) でも、血液を吸ったものは産業廃棄物であり、生理食塩水を吸ったものは単なるプラスチックのゴミである。産業廃棄物の処理には金がかかり、それは税金によって負担されるため、節約の観点からもこの分別は合理的であり、安全性にも何ら問題はない。ところがこれではダメだという。「一般ゴミにシリンジなどが混入していると、プロ市民を僭称するアマチュアが『ゴミの分別がされていない』と誤解するため、シリンジなど曲解されかねないゴミは全て産業廃棄物にすること」という通知が最近になって出され、俺を始めとする何人かの研究員のアタマの血管がブチ☆切れた。

この種の話は枚挙に暇がない。動物実験、細胞培養、遺伝子組換え、ウイルス実験などなど、現代生物学を支える技術のほとんど全てに、孑孑のごとき無知を基盤とする無意味かつ徒労の規制が付きまとう。iPS 細胞が開発されたのは何故か。ES 細胞、特にヒト ES 細胞を使用するには莫大な量の書類を書き上げ、膨大な時間を文部科学省・厚生労働省との折衝に費やし、巨大な金額を費やして専用の施設を用意しなければならない。これらの行為の 99% は科学的に何の意味もない。体細胞由来の全能性細胞があれば、このクソ忌ま忌ましい規制に縛られることなく研究ができるのになあ! そうして作られたのが iPS 細胞である。——という逸話は広く語られている。どこにも医療の話なんて出てこない。「iPS 細胞で再生医療なんて夢のような話やな!」「夢やがな〜」。まるで大木こだま・ひびきの漫才だ。

特定アジアからの留学生にはかなりの金銭が税金から支給されるが、日本人がリーチできる奨学金は名前を変えた借金でしかない。大学院に留学生が 1人来ると日本人が 1人辞める。それを今度は移民だという。俺の周囲からはせせら笑いしか聞こえてこない。ニュースでは「少子高齢化による人口減少の流れを踏まえ、海外からの人材確保体制を強化する」と報じられているが、早急に対策すべきはむしろ日本人の人材流出についてである。

俺の周りの優秀な連中が何を考えているのかといえば国外への脱出であり、早くからその準備に余念がない。21世紀に祖国を失い彷徨えるのはユダヤ人ではなく日本人である。美しい国とやらは実はとっくの昔に亡くなっており、ときおり感じるのは蜃気楼の残り香に過ぎない。悪貨は良貨を駆逐する。この国に残っているのは老害と DQN と売女とゆとりとガイジンだけである。そのような被害妄想に冒されている若者は少なくない。

勝ち組・負け組と煽り合っている間に、国ごと「負け国」になってしまったような気がしてならない。

研究日記

午前中は大学の動物実験施設で業者の方々 2名と実験。昼から同施設で年度更新講習を受講。病院に戻り、病院の動物実験施設の年度更新講習を受講。

免疫染色の結果は微妙。タンパクの localization はそれほど重要ではないので、Western で定量化した方が良いかもしれない。でも Western のためのサンプルは採取されてないんだよなあ。

ゲーム日記

研究員君がついに PSP と MHP2G を買ったらしい。テクニシャン氏、テクニシャン君と合わせて 4人プレイが可能になったが、現段階では装備・技量に差があり過ぎて、全員が楽しく遊ぶには工夫が必要だろうなあ。

運動日記

スポーツ・ジム 4回目。昨日は下半身のフォーム改善に注力したが、今日は上半身のブレに留意して走った。ピョンピョン飛び跳ねるのは位置エネルギーの無駄遣いである。

長距離走をしていた頃は、「長い距離を走るのは大変だろう」「長時間走ると疲れるだろう」とよく言われたものだが、連続走行距離や連続走行時間は少しのトレーニングで簡単に伸ばすことができる。長距離走で最も難しいのは「いかにトップ・スピードを上げるか」「どのようにそれを維持するか」である。あくまで理想論ではあるが、同じ動作を繰り返している限り、原理的には同じ速度を保つことができる。したがってフォームの維持は、スピードの維持と直結する重要な課題である。

トップ・スピードを上げるには筋肉トレーニングが有用だが、今のところ興味はない (というか取り組む余裕がない)。