2008/03/11/Tue.無償の秩序
スチュアート・カウフマン『自己組織化と進化の理論』を読んでいる T です。こんばんは。
まだ 4割ほどしか読み進めていないのだけど、忘れない内にメモ。
- ゲノム上の遺伝子 (当時のカウフマンは、ヒトで N = 10万として計算している) は基本的に、発現しているか発現していないかである。すなわち、ゲノムが原理的に表し得る遺伝子の発現状態は、210万 種類という超天文学的な数字になる。
- 次のように仮定する。各遺伝子のオン/オフは、別の遺伝子のオン/オフによって規定される。各遺伝子が、2個の別遺伝子によって制御される (K = 2)。各遺伝子の発現は、別遺伝子の状態のブール関数として決定される。
- この場合、ゲノムというブール式ネットワークが取り得る状態はたった 317種類である。状態はこの間を循環する。
- この秩序は、状態空間が幾つかのアトラクターを含むことによって実現される。ある安定なアトラクター内での状態変化は、最終的には一定の状態、あるいは一定の循環サイクルに収束する (というか、それがアトラクターの定義である)。
- 「私は、ゲノムネットワークの広大な状態空間の中の各ブラックホール状態循環アトラクターが、異なるタイプの細胞であると提案する」(208頁)
- ある分化した細胞のゲノムの状態 (= 遺伝子発現パターン) がアトラクターであるとすれば、細胞の homeostasis は、アトラクターの安定性として半ば自動的に保証される。
- アトラクターは状態空間内に cluster の形で存在する。各 cluster は離れている場合もあるが、何らかの形で接点がある場合も多い。
ここから誰もが考えつくことは (俺がまだ読んでいない部分で既にカウフマンが言及しているかもしれないが)、
- 細胞の分化とは恐らく、あるアトラクターから別のアトラクターへの相転移であろう。
- 未分化な細胞の状態というのは、恐らく相転移が起こりやすい、やや不安定な状態なのであろう。
- 初期条件の影響が一定の範囲内に収まる状態空間 (カオスの縁) では、恐らく development は半自律的に進行する。
- ホルモンやサイトカイン、cell-cell signaling というのは、あるアトラクターから別のアトラクターへの external な情報入力としての意味もあるのだろう。
で、1つのキャッチーな仮説として、
- たった 3つの遺伝子を exogenous に発現させただけで、ある細胞が iPS 細胞になるという事実の妥当性は、恐らく数学的に示すことが可能。
- 山中博士が論文で報告した、iPS 細胞への形質転換効率のオーダーも、恐らく数学的に妥当な説明をすることが可能。
- 上記 2つの作業に必要な数字は、microarray などの実験によって、オーダーだけでも入手できるかもしれない。
- Exogenous に導入した遺伝子の発現が、iPS 細胞になってから silencing を受けるという事実は、アトラクター理論からすればむしろ当然。