- Candy and Whip

2007/05/28/Mon.Candy and Whip

「キャンディー・アンド・ウィップ」という響きは、何となくニセモダン的で良い感じじゃないかと思う T です。こんばんは。

今日のタイトルは「飴と鞭」を直接英訳したものだが、こういう言い回しが英語にあるわけではない (あるかもしれないけど)。普通は「carrot and stick」というらしい。日本語には「鼻先に人参をぶら下げる」という表現はあるが、鞭や棒は出てこない。こういう、どうでも良いことが面白い。

さらにどうでも良いが、騎乗した日本の武士が鞭を使っているのを見たことがない。「ハイヤーッ」などと叫んで手綱を操る映像が時代劇では一般的だが、実際はどうだったんだろう。

研究日記

大学 → 病院。

大学で機器の講習を受ける。これで高感度 autoradiography の実験ができる (RI 実験の講習は随分と前に受けたが)。

病院では実験。最近はやけに実験時の集中力が高い。脳汁がビュルビュルと出る。気が付いたら結構な時間が経っていた。

隣の栄養士嬢が、そのラボの先生から指導を受けていた。実験室は共同の大部屋なので、他のラボが何をしているのかよくわかるのだが、この先生はお構いなしにガンガンと叱り飛ばすことで名を馳せている。

その光景を見るたびに、何だかなあ、と思うのは私だけではないようだ。他のラボの方針に口を挟むつもりはないし、指導は厳しくあってしかるべき、とも思う。しかし叱り方にも適度というものがあって、廊下の向こうにまで届く大声で怒鳴るのが指導かと問われれば、首をかしげてしまう。叱られる側にも自尊心がある。彼らは基本的に逆らわない (逆らえない) ので、叱る側はその心情を汲み取らねばならない。極めて日本的といえば日本的だが、それが嫌なら外国人でも雇って喧嘩をすれば良い。雇用者が被雇用者を叱り飛ばすのは勝手だが——、結果としてこのラボは、イチロー 2人分の打率に匹敵する離職率を誇るようになった。こんなことを書くのもアレだが、ちょっと異常な数字である。

私も就職した当初は、留学された先生やボスに随分とやっつけられたものだ。私の未熟が原因なのだし、給料を貰っている以上、何を言われても当然である。しかしこれは、私にある種の覚悟があったから成立したわけである。そんなことは叱る側もわかっている。彼らがテクニシャン諸氏に厳しく当たることはない。そんなことをすれば、辞められるのは目に見えている。テクニシャン諸氏にとって、PI レベルの研究者が直接求める仕事は、理不尽以外の何物でもない。内容によっては、やってやれないことはないかもしれないが、それならもっと給料を寄越せ、となるだろう。PI からすれば、給料を上げるなら新たに研究員を雇う、となる。市場原理が成立しているのだ。あえてドライに書いたが、各人の本音は大方こんなところだろう。

我がラボでは、現場レベルのプレッシャーを全て研究員が背負うことで、円満な関係が成立している。なんて書くと、いかにも研究員が悲惨なようだが、そうでもない。研究員は研究員で大事にされている。私が大学院に行かせてもらっている事実を指摘すれば充分だろう。市場原理とは、飴と鞭でもある。皆が 100% ハッピーになることはあり得ないが、妥協点を探る努力はできる。面倒だが、結果的にそれが最も低コストなのである。

件のラボは、そういう手続きを取っ払って、ひたすらに爆走するから脱落者が後を絶たない。「隣の T は土日も働いているぞ」とハッパをかけたところで、奮発できるわけがないだろう。私とボスの間に存在する give and take を知らない人にとって、私は単なるワーカホリックでしかない。こちらこそいい迷惑だ。……半分は真実だけどな。

「あれじゃあ辞めますね」という、我らがテクニシャン嬢の言葉が印象的だった。だよなあ。鞭だけで動くわけがないよ。馬じゃないんだから。