- キリンの首って長いか?

2006/04/22/Sat.キリンの首って長いか?

散髪に行ってきた T です。こんばんは。

研究日記

Molecular Biology of the Cell

今日から、簡単な箇条書きで良いから、その日の仕事を書くことにする。せっかくの日記だし。

大学 → 病院。大学では細胞から RNA を回収。病院では細胞の世話。今さらながらMOLECULAR BIOLOGY OF THE CELL 4th Editionを購入。月曜にセミナー発表が当たっているので、その準備と勉強を少し。論文 2報を読む。

キリンの首

高い所にある葉を食い散らかすためにキリンの首は伸びたという。しかし、食べられる樹木の方もまた生物であって、彼らも進化する、という視点はなぜかあまり議論されない。キリンの首が長いことを説明するこの初歩的な(そして微妙に間違えている)論法を樹木に適用するならば、彼らはキリンに食べられないように樹高を低くするだろう、という推測が成立する。そうなると、それを追いかけるキリンの首はいずれ縮んでいかなければならない。巨視的な時間軸で見れば、キリンの首の長さはある周期の波形を描くはずである。だが、こういう議論はほとんど見かけない。

キリンの首の長さだとか、マンモスの牙であるとか、そういう非常に特異な部分は人間の目に付きやすく、目立つがゆえに進化論のネタにされやすい。けれども、これらの部分が特異であるとか目立つであるとかは、あくまで人間の主観であって、これらの器官がある目的を持った進化の産物であるという根拠は何もない。それをあたかも自明の前提であるかのように議論の土台に据えてしまうのは、思考上、大変に危険なことではなかろうか。平たくいえば、キリンの首の長さはそれほど異常なものなのか? 頭を冷やして考えてみる価値はある。

キリンの頚椎の数は、他の哺乳類と同じく 7つである。そういう意味では、ウマの蹄(つまり指)が 1本しかないことの方が、よほど形態学的に異常である。少し思いを巡らせば、ヘビやカメの奇天烈さにも気付くだろう。もちろん、これらの動物に関しては、化石から遺伝子まで、精力的に研究が行われている。でも、「進化のはなし」とかいうレベルになると、やっぱりキリンが出てくるわけで、俺が問題にしているのもそこである。要するに、ヘビやカメに比べて、単に我々がキリンを見慣れていないというだけのことじゃないのか。人間の手足だって、割合としては異常にヒョロ長いぞ。

自分の「常識」とやらを基準に据えることには(科学上)何の意味もない。それを知っていたからこそ、ダーウィンは進化論に辿り着いた。しかし、進化論が常識になってしまった今、我々はそれにどっぷりと浸かってしまって、キリンの話に「なるほど」と頷いている。人間は、「神が世界を作った」と信じていた頃から、何か精神的に進歩したんだろうか。進歩すりゃ良いってもんでもないが。

君子は豹変す

俺がこの日記で折りに触れて主張しているのは、「自分の頭を使え」ということだ。まァ、主張というか、自分に対する戒めなんだけれども。

自分の頭を使う。言うは易く、行うは難し。ただ何でも疑えば良いというわけではない。それでは懐疑主義だ。「主義」というのは、良くいえば思考のフォーマット、辛辣にいえば思考停止である。本当に重要なのは、疑うかどうかを自分で判断することだろう。判断には基準が伴う。この基準も、固定化していてはしょうがない。判断基準もまた、常に見直しを要する。君子は豹変す、ってことだな。君子じゃないけど。