- 治療と研究

2005/08/29/Mon.治療と研究

先輩の土産で、初めて鯨羊羹を食べた T です。こんばんは。

研究日記

いつも月曜日はバタバタするだけで終わってしまう。一度帰宅してから大学へ。設計したプライマーで DNA が増えていたのでホッとする (PCR は別の人が行った)。変異を挿入するために、少々ややこしい手順になっているのだ。まァ、この手のベクターは学部生のときに散々作ったからなあ。大丈夫だろ。

21時よりセミナー。

治療・臨床・基礎

「人体を機械で補う必要はなくなる」という日記を書いて 3週間、早速こんなニュースが。

埼玉医科大の許俊鋭教授は 27日、同医大総合医療センターで記者会見し、急性心筋梗塞(虚血性心筋症)の患者が心臓再生治療で心臓機能が改善したため補助人工心臓を外して同日退院したと発表した。

治療は、患者本人の骨髄を採取。骨髄有核細胞を遠心分離器で分離し、カテーテルを使って壊死していた心臓の左心室の冠動脈に移植した。同医大は動物実験など長期にわたって心臓再生治療の研究を進め、2003年 11月には同大倫理委員会で患者に治療を行う承認を得た。(読売新聞)

大学病院の三本柱は、「治療・教育・研究」であるという。そして「研究」は、臨床と基礎にわけられる。もちろん、理学部出身の俺が携わっているのは基礎的な研究である。そんな俺は、実際の治療でここまでやられちゃうとなあ、と思ってしまう。

病院勤務の経験が豊富な先輩によれば、心臓を含む循環器系では、臨床研究の方がよほど進んでいるという。何故か。疾患に対する治療が緊急を要するからである。ちんたらとマウスの ES 細胞から心筋を分化させている間に、患者の容体は急変して死に至る。勢い、このような分野では臨床研究が強くなる。そしてニュースのような治療が行われ、成功する。素晴らしいことではあるが、複雑な思いもある。

臨床研究で明らかになるのは、統計学的な相関関係であり、結果に対する経験則である。しかしメカニズムの解明、因果関係の立証はなされない。無論、基礎的なデータも充分に吟味し、高い確率で成功することを確信したからこそ治療に踏み切ったのだろうが、それは 100% ではない。だからこそ、「倫理」委員会の承認が必要となる。メカニズムがわかっていれば、問題になるのは「論理」である。

生きるか死ぬかの瀬戸際では、生物学的興味なんぞはいずこかへ吹っ飛んでしまう。そういう意味で、理学は幸福な学問である(皮肉ではなく)。違う畑に飛び込んで来た俺には、色々と考えさせられるニュースであった。「基礎」といっても、これまで身を置いてきた生物学からすれば、それなりに応用的である。そのような境界領域において、何ができるのか、何をすべきなのか。問いは尽きない。