- 肥満と脂肪 (2)

2005/07/09/Sat.肥満と脂肪 (2)

脂肪細胞は筋肉細胞と由来が近いため、何となく親近感を覚える T です。こんばんは。

今日は「肥満と脂肪 (1)」の続き。

肥満と成人病

「肥満自体は決して病気ではない」と前回にも書いた。肥満は、高脂血症 (hyperlipidemia)、高インスリン血症 (hyperinsulinemia)、高血圧 (hypertension) などのリスクファクターではある。が、肥満の人間全てがこれらの症状を呈するわけではない。発症しない限り、肥満は潜在的なリスクファクターでしかない。

重要なのは、肥満によって惹起される高血圧などが、糖尿病 (diabetes) や動脈硬化 (arteriosclerosis)、梗塞 (infarction) といった、より凶悪な疾患のリスクファクターでもある点だ。すなわち、肥満を抑制できれば、これらの重篤疾病を未然に予防できる可能性が高い。

現在、成人日本人の 1/4 が成人病(生活習慣病)およびその予備軍とみなされている。成人病は根治が難しく、治療費も高額である。肥満を抑制できれば相当の医療費を削減できるという試算もあり、近年、各国で肥満 = 脂肪細胞の研究が盛んに行われている。

脂肪細胞特異的な遺伝子群

ヒトゲノムが解読された後、各組織細胞における発現プロファイルの比較が行われた。全ての細胞は同一のゲノムを持っているが、同じように遺伝子を発現しているわけではない。筋肉でしか発現しない遺伝子(組織特異的)もあれば、細胞分裂の一時期にしか発現しない遺伝子(時期特異的)もある。例えば、他の細胞と比較して筋肉でしか発現していない遺伝子があれば、それは「筋肉を作るための遺伝子」「細胞が筋肉として働くための遺伝子」である、と推測できる。これらの遺伝子群の重要性は言うまでもない。

で、脂肪細胞 (adipocyto) 特異的な遺伝子群の解析も行われたのだが、その結果、脂肪細胞は多数の分泌タンパク (cytokine) を発現する生体最大の内分泌器官である可能性が示唆された。それまで、脂肪細胞の機能は「脂肪を溜め込む」以外にハッキリしておらず、細胞生物学的な報告もほとんどないという状況であった。

これまでにも、肥満と各種疾病の強い相関関係はよく知られていたが、その分子的基盤は全くわかっていなかった。そこで、にわかに脂肪細胞が分泌するタンパク質 (adipocytokine) に注目が集まったというわけ。現在、肥満性疾患の多くは「脂肪細胞由来の adipocytokine による炎症」というふうに認識が改まりつつあるらしい。

覚書

次回は、幾つかの有名な adipocytokine と脂肪細胞の分化について、その分子的な機序をメモ書き程度に記そうかと考えている。あまり一般的な話題ではなくなりそうだけど、俺もまだ知らないことばかりなので、そんなにややこしい話はしない(できない)と思う。