- 意味が先か、言葉が先か

2004/10/18/Mon.意味が先か、言葉が先か

論文を読むのにも飽きてきた T です。こんばんは。

公募の応募書類作成に、明日セミナー発表の準備。大したことはしていないのだが、何故か紙仕事は時間を食う。イヤな疲れ方だが、今週が一つの山となりそうなので、踏ん張っていこうと思う。にしても、何でこんなときに台風 23号 (TOKAGE) が来るかなあ。これで今年は何個目よ?

ポリペプチドとタンパク質

ずっと前から気になっていたのだが、ポリペプチドとタンパク質の違いって何なのだ。恐ろしく基本的な疑問で申し訳ないが、しかし両者の違いをハッキリと記述したものを見たことがない。複数の教科書で「タンパク質はポリペプチドである」という定義がなされている。では、タンパク質ではないポリペプチドがあるのか。言い換えれば、ポリペプチドがタンパク質になる条件というものがあるのか。極めて謎である。

一つ言えるのは、「ポリペプチド」は化学の言葉であって、「ポリ-」にしろ「ペプチド」にしろ、厳密で化学的な定義の上に成り立っているということである。そこに法則性はあっても、恣意性はない。まずは定義あり、というわけだ。

一方、「タンパク質」(というか「Protein」)は任意に付けられた名前であって、言葉それ自体には意味がない。「雲はどうして『雲』というのか」という問いと同じで、仮に説明はできても答えにはならないのだ。言葉を規定する枠組みが不完全なまま、先に言葉の方が生まれてしまったからである。「ポリペプチド」と「タンパク質」では、言葉の成立過程が全く違う。「タンパク質はポリペプチドである」というのは、言葉ができてからわかった事実であり、後付けで正確な対応を試みること自体、科学的には不毛であるのかもしれない。

生物学のタームには、他の自然科学の分野から見れば、いい加減に思われるであろう言葉がたくさんある。例えば「遺伝子」がそうだ。遺伝子の定義は、生物学の発展とともにコロコロと変わってきた。一方で、遺伝子の物質的実体であるDNAは、化学の言葉で定義されている。遺伝子であろうとなかろうと、「DNA」は常にデオキシリボ核酸という物質であって、それ以外の何物でもない。

こういう性質の言葉が体系的に整備されている学問は、やはり強いよなあと思う。応募書類の研究概要を書きながら、そんなことを考えていた。よほど注意していないと、生物学の記述はフラフラとしてしまう。それゆえに、言葉遊びをしただけのビッグ・マウスなんかも現れたりするのだが。問題だよなあ。