- いい日、旅立ち

2004/03/21/Sun.いい日、旅立ち

久し振りにバイクに乗った T です。こんばんは。

曇っていた上に少し寒かったのだが、早起きしたのでバイクを走らせることにした。いつものように山の中へと入って行く。空気が湿っぽいせいか、それほど花粉は飛散していないようで、花粉症が出なかったのは幸いだった。しかしやはり寒い。現在、免許証の点数が残り一点という俺は、どのみち大したスピードを出すわけにはいかない。制限速度 + 10 km/h の安全走行でツーリングを楽しんだ。これくらいなら、それほど寒くない。

バイクに乗り始めて三年、スピードを出さなくともライディングを楽しめることがわかってきた。買ったばかりの頃は嬉しくて、とりあえずメーターをブン回しとくか、などとバカなことをやったもんだが(もう絶対にしません)、そもそも、風防など全くない俺のようなネイキッド・バイクでは、120 km/h も出せば身体が吹っ飛びそうになって、それ以上はいくらスピードを出しても同じなのである。バイクには、もっと他の楽しみ方もある。

ライダー達がバイクの魅力を語るとき、必ず「爽快感」というキーワードが含まれていると思う。確かに、むき出しの身体に風を浴びる解放感は、何物にも変え難い。しかし、それだけならオープンカーと似たり寄ったりだろう。バイクとの一体感、などとも言われるが、そういう感覚を支持しているものの一つに「加速感」があると思うのだ。

Power weight ratio という数値がある。馬力重量比とでも訳せば良いのだろうか。単位は kg/ps で、要するに、一馬力 (ps) あたり、どれくらいの重量 (kg) を引っ張っているのかという値である。この数値が小さければ小さいほど、エンジンの負担が少ないのはわかって頂けると思う。マシン・パワーというのは、単純に馬力や排気量だけでは決まらない。

例えば、俺のバイクはおよそ車重 200 kg、馬力が 50 ps だから、power weight ratio は 4 kg/ps である。これに対し、重量 1 t、馬力 100 ps の車があったとすると、その power weight ratio は 10 kg/ps である。カタログスペックだけを見ると、100 ps の方が馬力がありそうな気がするが、一馬力で引っ張る重さが 4 kg か 10 kg かとなると、50 ps でもバイクの方がよく加速しそうなのは、直感的に理解できると思う。勿論、いつも最大馬力が出るわけではないし、トルクとか色々な要素がからんでくるのだが、一つの目安にはなる。

この加速感というのは、やはり快感である。400 cc しかない俺の愛車でも、エンジンの回転数を合わせてシフト・アップすると、ドゴン!という感じで、凄まじい加速をする。そういう意味では、マニュアル・シフトであるということが非常に重要だ。同じバイクとはいえ、昨今流行の大排気量スクーターに俺があまり魅力を感じないのも、それがオートマティック車であるという事実に起因する。楽だし、快適だとは思うが、どちらかを選べと言うならマニュアルである。本当は両方欲しいけれど。

加速感というのは、実は低速域の方が感じやすい。30 から 60 km/h に加速するのと、100 から 130 km/h に加速するのでは、両者とも 30 km/h 分の加速なのだが、加速前後の速度比は前者が 2 倍、後者が 1.3 倍である。こと「加速感」になると、前者の方が「大きい」ということになる。そういう意味でも、あまりトップスピードにこだわりはなくなる。

勿論、こういった楽しみ方は能動的なものであるし、誰にでも、というわけにはいかないだろう。でも、それはひょっとして、どんな趣味にも当てはまる本質の一端じゃないかとも思うのだ。

さて、めちゃめちゃ前振りが長くなったが、もう少し書く。ちょっとイイ話を二つ。

コンビニにバイクを止めて一服していると、行楽途中と見られる家族連れが近寄ってきた。夫婦と、まだ小学校以前の息子という組み合わせである。息子が俺におずおずと近寄ってきて「バイク見せて下さい」と言う。否やはない。好きなだけ見るが良い、子供よ、と言うと(当たり前だが、こんな風に言ったわけではない)、嬉しそうな顔をして、舐め回すようにアチコチを見ている。まあ、各パーツの意味なんかはわからないんだろうけれど、とりあえず「メカ!」という感じが、彼には格好良く映るのだろうな。車ではこうはいかない。

見飽きたのか、息子はバイクから離れ、何やら父親に耳打ちしている。感想でも言っているのであろうか。すると今度は父親が近寄ってきて、「息子がバイクの写真を撮りたいと言っているのだが、撮影して良いだろうか」と訊いてくる。否やはない。好きなだけ取るが良い、父よ、と言うと、二枚ほど写真を撮り、礼を言って家族は去っていった。

最近、仮面ライダーがブームになっていたようだし、案外と、今の年齢一桁くらいの子供はバイクに感心があるのかもしれんな、などと思って缶コーヒーを飲み干した。彼等が新しい世代のバイク乗りに成長することを望んで止まない。

その後、しばらく乗り回してから吉野家に行った。残念ながら O 嬢は不在であった。ガランとした店内に、明らかにライダーな人がイクラ鮭丼を食っている。俺が豚丼を頼んで喰っていると、先に会計を済ましたライダーが店を出て行った。

彼がどんなバイクに乗っているのかが気になった俺は、飯をかき込みながら彼の行く先を見ていた。彼は店を出た後、俺のバイクに近づき、ポケットからカメラ付きの携帯電話を出すと、おもむろに撮影した。びっくりしたまま見ていると、彼と目が合った。彼は照れ臭そうに笑って、軽く会釈をする。そのまま彼は、白い HONDA CB400 にまたがり、颯爽と走り去って行った。

彼が何故、俺のバイクを撮影したかは知らない。ひょっとしたら、行く先々で出会ったバイクをカメラに収めているのかなあ、などと考えた。何か、ホノボノとした趣味じゃないか。撮られた俺だって悪い気はしない。何だか、丹精込めて育てた娘(いないけど)を褒めてもらったような、そんなこそばゆい感じだ。

とまあ、愉快なバイク日であった。日記が長くなってしまったけれど。