- 丸刈りの話 (3)

2003/04/27/Sun.丸刈りの話 (3)

前日書いた通り、俺の丸刈りはある程度まで延びた髪の毛をばっさりと落としてしまうパターンなので、散髪屋に行って「丸刈りにしてくれ」と注文すると、大抵「本当に良いんですか?」と聞き返される。俺が本気であることを確認すると、バリカンを片手に刈り始めることになるのだが、どこからバリカンを入れるかで、いくつかのパターンがある。

<同情型>
何か辛いことでもあったのだろうかと勝手に察してくれ、せめてショックが少ないようにという配慮からだろうか、裾から丁寧に刈り上げてくれる店員さんがこのタイプ。作業の最中にも「ちょっと勿体ないですねえ」とか「丸刈りも似合いますよ」とか、優しげに語りかけてくれるのが印象的である。
<破壊型>
やはりある程度延ばしている髪を一気に刈り上げるという行為には人間の破壊衝動を誘う何かがあるのだろうか。縦横無尽にバリカンを走らせる店員もいる。このタイプでは、まず、前頭中央部から後方へと一気に刈り上げてしまう。鏡の中にはおよそ人間世界では見ることのできない髪形をした男が座っているわけだが、この後も、どうせ最後は丸刈りだからと好き放題に頭髪を落とされていく。
 明らかに楽しんでいるとしか思えないのだが、鏡を見ている俺自身も相当に面白がっているので、人の頭で遊ぶなとは、とてもじゃないが言えない。
<事務型>
どのような髪形であろうと、それは顧客の注文。こちらはそれを満足する散髪を実行するのが唯一の役目。このような冷徹なプロフェッショナルが事務型だ。必要もないのに、刈り上げる前の髪を丁寧にに濡らし、櫛を通してくれる。マニュアル通りにシャンプー、リンスの後はドライヤーで乾かしてくれもする。ちなみに坊主頭にドライヤーは死ぬほど熱いのだが、プロに口答えはできない。一度、このタイプの店員に「整髪料はどうしますか?」と聞かれ、ギャグなのか本気なのか判断できなかったという経験もある。マニュアル人間も程々に、とそのときは思った。

いかがだろう。たかが丸刈りといえども、かくも深い人間模様が繰り広げられたりするのだ。