本書では、白川翁が百個の漢字について、その成り立ちや意味を軽妙に説いている——のであろうと思って購入したら、全く違っていた。内容はすこぶる濃密で、白川漢字学の要諦が結晶化したような小冊である。題名通り、百項目から成る。各項は数個の段落からなり、その一つ一つは以下のような具合である。
辺境の呵禁には、主としてこの断首祭梟の俗が行われた。放が屍体を架してこれを殴つ放逐の儀礼であることはすでに述べたが、その放に頭骨を具している形は
敫 である。白は頭骨の象。これを道におくところは徼 、辺徼とは辺塞を意味する字である。そのように白骨化した屍体を殴つことは、これを激してその呪霊を邀 え、呪禁の効を徼 めるものであり、その枯骨は色を失って皦 白、これを叩けば噭 然たる音を発するが、それは内部が空竅 となっているからである。その激するところを文に載せたものを檄 という。放・敫に従う字はみなこの祭梟の俗によるものである。(「Ⅲ 古代の宗教 27 道路の呪術」)
僅々三百頁で数千の字義が述べられている計算になる。濃密な記述のため、詳細な論考は省略されているが、基本となる数百の文字については甲骨文や金文が載せられており、視覚による直感的な理解を助けている。
当然ながら、一読して終わる本ではない。その文字を使う折々に繙いていきたい。のだが……、信じ難いことに索引がない。編集者は何を考えているのか。