- 『酒にまじわれば』なぎら健壱

2011/01/01/Sat.『酒にまじわれば』なぎら健壱

『酒(しゅ)にまじまわれば』とルビが振ってある。酔っ払いによる、酒にまつわるエッセイ集。

酒云々よりは、酒を呑んでの面白い話がほとんどである。ムチャクチャな酔談も多い。

やがて、誰だかが店内に飾ってあった牛の頭蓋骨を壁から外して、それをオモチャに腹話術などをやり始めた。しばらくはそんなことをして遊んでいたのだが、それにも飽きると、ヒョウキンなM君が標的となった。どういう流れか、ひとりがM君の背中に牛の頭をガムテープで固定し始めた。

(略)M君は“受け”を狙って、その格好で街に出て行った。

彼はヴァイオリンを鳴らしながら、街頭を「一曲いかがですか」なんぞと言いながら練り歩く。道往く人は一様に怪訝な顔をしてM君を避けて通る。その十メートル後方には笑いながら見ている我々の姿がある。ちなみに、M君はヴァイオリンを弾けない。しかるに、ギーコ、ギーコと嫌な音が冬空に響く。

(「さすらいのヴァイオリン弾き」)

どのエッセイも、文庫本で見開き二頁ほどの短さである。内容は酔っているが、文章のキレは良い。酒を呑みたくなる一冊。