- 『マネーロンダリング 国境を越えた闇金融ヤクザ資金』平尾武史/村井正美

2010/07/11/Sun.『マネーロンダリング 国境を越えた闇金融ヤクザ資金』平尾武史/村井正美

「五菱会ヤミ金融事件」のレポート。

五菱会山口組系二次団体であるが、この事件を実際に構成していたのは、「闇金融の帝王」と呼ばれた梶山進である(闇金融に専念するために梶山は五菱会を辞めている)。梶山とその七人衆が統括する数百店舗の闇金融店が得る資金は、五菱会を通じて山口組に上納されていたと考えられている。

二〇〇二年、暴力団組織の「血液」であるところの資金を封じるため、関係当局は梶山の闇金融店を摘発し始めた。危険を感じた梶山らは、彼らの資金(梶山だけで百億円以上、その他数十億円)を海外に移すことを画策する。もちろんこのような怪しい大金を、正規の方法で、しかも短期間に動かすことはできない。そこで使われたのが、割引債と海外プライベート・バンク(この事件ではクレディ・スイス香港)を組み合わせたトリックである。この仕組みは、クレディ・スイス香港の従業員(日本人)が案出、提示した。

一方、当局側も資金洗浄に対する規制を強化しており、様々の組織がまさに整備されつつあるという状況だった。本件は、その新組織が巨大な資金洗浄に立ち向かう物語である。捜査本部は、整備されていない法律、なかなか進まない海外捜査陣との協力といった困難を乗り越え、立件に成功する。

梶山らが行った資金洗浄の実際、そして具体的な捜査の進展については本書を読んでほしい。よくできた犯罪小説のようで、大変面白い。

本書では他にも、犯罪で得られた不正資金に対する各国政府の対処状況、海外銀行の営業状態、過去の犯罪事例などが報告されている。犯罪資金に関する日本の対応は遅れていたが、本件を契機として法整備などが進み、裁判の判例や、検察・弁護士による被害者対策も充実しつつある。

本書は、「五菱会ヤミ金融事件」というエポックメイキングな実例を通じて、犯罪資金や資金洗浄、それらへの社会の対応について知ることができる良書である。