- 『国家と人生 寛容と多元主義が世界を変える』佐藤優/竹村健一

2010/07/01/Thu.『国家と人生 寛容と多元主義が世界を変える』佐藤優/竹村健一

佐藤優と竹村健一の対談。

佐藤の母親は沖縄久米島の出身である、という話が特に面白かった。独自の歴史を有する琉球は、本土とは異なる思想を持っている。眼前の現実に対応するために培われてきた感覚、その細かな機微が描かれていて興味深い。

竹村 そもそも、沖縄は琉球王国という独立国で、それとは別の久米島という独立国があったわけね。

佐藤 十六世紀の初めまでは、そうです。琉球王国は独立国だからアメリカと単独で条約まで結んでいる。一八五四年に日本に来航した帰途、ペリーは沖縄に立ち寄って「琉米和親条約」を結んだのです。面白いのは、そのときペリーはひどく怒っていたことです。「琉球王国の連中は嘘ばかりつく」というのです。

これは岩波書店から出ている『日本近代思想体系』の第一巻「開国」に記述されています。当時、琉球の人は西洋人をすべて「ウランダ」と読んでいた。オランダが語源なのですが、そのウランダがやってきたときの対外応答要領、想定問答をつくっているのです。

「砂糖がどれくらい取れるのか?」「さあ、たいして取れません」

「日本との関係は……。従属しているのか?」「さあ、どうなっているかわかりません」

こんな形で、「できるだけ頭が悪いようにふるまえ」という趣旨です。要するに、何の資源も価値もない島だと思わせて、アメリカが占領意欲を失うように仕向けろというわけです。

「何も取れない。せいぜい中国や日本から物品が流れてくるだけの価値のない島。だから中国や日本に行ったほうがいいですよ」と誘導するような問答集をつくっていたのです。

(「第1章 沖縄から日本が見えてくる」)

沖縄の本土観、米国観は realistic であり、pragmatic ですらある。

竹村 それどころか、逆転の発想で沖縄の戦略的位置という点を考えると、アメリカが世界の最強国である限り、アメリカの基地があれば……。

佐藤 安全保障の論理からすれば、日本でいちばん安全な場所です。沖縄を攻撃するということは、アメリカと世界戦争に入ることを意味します。沖縄の人はそれをよくわかっているんです。

竹村 それをわかったうえで、基地反対の態度をとり続ける。そうすればお金も落ちてくる。沖縄の人は頭がいいね。

佐藤 その通りです。しかも頭を下げないでもお金が取れる。同時に沖縄の人々にとって基地をもつことが大きな負担になっていることは間違いない。それに、そういう基地の存在は一種の「麻薬」で、やがて抜けられなくなる。だから同じ沖縄のなかでも、真にグッドアイデアを生み出すのは基地が存在しない周辺諸島、久米島や与那国島などではないかと思います。

(「第1章 沖縄から日本が見えてくる」)

他にも色々な事柄について語られているが、その多くは『国家と神とマルクス 「自由主義的保守主義者」かく語りき』とも重なる。しかし、憲法論で佐藤と竹村の議論が対立する点などは、対談ならではの妙味といえよう。