- 『増補 スペースシャトルの落日』松浦晋也

2010/05/09/Sun.『増補 スペースシャトルの落日』松浦晋也

スペースシャトルの計画、設計、技術、運営を批判的に記述している。解説は堀江貴文。

計画

アメリカの宇宙計画には公共事業的な性格がある。地元の宇宙産業に金を落とすため、団体のロビー活動や議員の運動が繰り広げられる。本来なら、技術的な面から検討されるべき計画が、極めて政治的に決定される。

スペースシャトル計画は、アポロ計画の次のプロジェクトとして決定された。このとき、スペースシャトルではなくアポロ宇宙船の発展というプロジェクト案もあった。既に実績のあるアポロ宇宙船を改良・発展させれば、短期間・低予算で計画が遂行できた可能性はある。しかしそれでは「地元に金が落ちない」ので、全く新しいスペースシャトルをゼロから開発することになった。

設計・技術

帰還時の僅かな時間にしかメリットが見出せない「翼」を持つなど、スペースシャトル、および発射のためのロケット、エンジンには、首をかしげたくなる設計が採用されている。

特に翼は、二〇〇三年二月一日の「コロンビア」空中分解事故の原因となるなど、スペースシャトルの安全性にまで関わる重大な設計ミスとすらいえる。

運営

当初の計画では、スペースシャトルは年間五十回、すなわち週に一回程度の運用を目指していた。しかし、実際に打ち上げられたのは、一九八一年から二〇一〇年までの約三十年間で僅か百三十余回であり、年間打ち上げ回数は一九八五年の九回が最高である。また、一九八六年一月二十八日の「チャレンジャー」爆発事故、上記「コロンビア」空中分解事故の二件が発生している。

年間五十回の打ち上げを前提とした、スペースシャトルを利用するその他の宇宙計画は遅れに遅れ、各国各人の時間と経費は無駄に費やされた。日本および日本人も例外ではない。

運営が滞った理由の一つに、技術上の問題がある。技術的な問題は設計上の理由から発生しており、設計的な問題は元々の計画に起因する。そして、スペースシャトル計画の立案には政治的な思惑が複雑に関わっており、まさに「どうしようもない」というのがスペースシャトルの実像であった。

ベンチャー

様々な問題を持つスペースシャトル計画であったが、莫大な金額・時間・人材を投じた結果、米国には幾つかの宇宙ベンチャーが生まれるようになった。現在、これらのベンチャー企業は自前でロケット、エンジンを開発し、試験的ながらも宇宙に打ち上げるまでの技術を持つに至っている。近年では、NASA もこれらベンチャー技術の採用を検討しているという。民間の資金が投入され、法的な整備が進めば、民間ベースの宇宙産業も意外と早い時期に実現するかもしれない。