- 『官僚たちの夏』城山三郎

2009/10/19/Mon.『官僚たちの夏』城山三郎

本書は高度経済成長期の通産官僚を描いた小説である。

主人公の風越信吾は「野人」と呼ばれる粗野な面もあるが、筋の通った人間である。「おれたちは、国家に雇われている。大臣に雇われているわけではないんだ」というのが信念であるため、大蔵省にも政治家にも経営者にも頭を下げぬ。特定の誰かのためではなく、「国のため」に政策を立案する。

風越のもう一つの特徴は、人間に対する興味である。「わたしは、いちばん、人間に興味があるんです。だから、もっともっと、これはと思う人事をやってみたい。あたりさわりのないトコロテン人事を、この通産省からしめ出したいんです」。彼はいつも手元で名刺を繰っている。省内の人間の名刺である。このカードを、ああでもないこうでもないと並び替え、将来実現するべき理想の人事を夢想する。いつしか「人事の風越」と言われるまでになった。

この風越と、彼を慕う、あるいは彼と対立する人間の群像が本書の主題である。官僚とは何なのか、どうあるべきか。政策とは、政治とは。人事とは、権力とは。それらの問いが、よく描き別けられた人物像によって体現され、彼らが摩擦することによって鮮烈に浮き上がる。そういう意味で、本作はよき「典型」が多数登場する小説である。