- 『デザイナー』一条ゆかり

2009/08/22/Sat.『デザイナー』一条ゆかり

一条ゆかり先生の作品は『有閑倶楽部』くらいしかまともに読んだことのない俺だが、本作『デザイナー』で、一条先生の一条先生たる所以が少し理解できたような気がする。

物語と登場人物はシンプルだ。トップ・モデルとして活躍していた孤独な少女・亜美は、交通事故でモデルとしての生命を絶たれるが、デザイナーとして人生の再起を賭ける。ライバル・デザイナーの鳳麗香、ファッション雑誌編集長の青石、デザイナーとしての亜美を支援する朱鷺と、その執事である柾、カメラマンの明、モデル仲間のアリサ。こられの (多分に愛憎を含む) 人間関係が複雑に交錯し、その中で亜美はデザイナーとして、一人の女として挫折と成長を繰り返す。

「私がなりたいのは常にトップよ それ以外なら最低も同じだわ」

トップを目指す亜美のこの台詞に、一条先生のプロ意識を投影してしまうのは俺だけではないだろう。

「私は女である前にデザイナーですわ」

これは麗香の台詞であるが、彼女の、落ち目になりかけてから発揮される表情にこそ、本作のテーマであるという「プライド」がよく現れていると思う。とにかく熱く、特にラストは壮絶の一言に尽きる。

本作は 1974 年に連載されたものだが、古さを感じさせない絵柄と、隅々まで描き込まれた緻密な画面には、今になって読んでも圧倒させられる素晴らしい魅力がある。さらに、これだけ「濃い」「重い」ものでありながら、『デザイナー』が、どこを切り取っても少女漫画であることは特筆すべきだろう。非常に完成度の高い 1 冊。