- Book Review 2009/06

2009/06/15/Mon.

鎮目恭夫、林一、小原洋二、岡村浩・訳。原題は "THE SECOND CREATION"。副題は "Makers of the Revolution in 20th-Century Physics"。

タイトル通りの内容だが、特徴的なのは、物理学者への直接のインタビューがふんだんに盛り込まれ、かなりの割合を占めているところだろう。当時の科学者の懊悩、葛藤、競争などが活写されていて面白い。

上巻の大半は量子論に費やされる。日本人では仁科芳雄、湯川秀樹、朝永振一郎らが登場する。素粒子物理学の基礎となるこの理論がいかなる経緯ででき上がったか、そして——これが重要だが——、その上で問題になるのは何であるのかが詳細に描かれる。上巻の後半からは、テーマのほとんどが対称性に絞られる。2008 年にノーベル賞を授賞された南部陽一郎博士へのインタビューもある。日本の物理学派がどのようなものであったかというエピソードは特に興味深かった。巻末には訳者らによる小林・益川理論、また 2002 年ノーベル賞授賞の小柴博士への言及もあり、関心のある方には一読をお勧めする。

本書では理論、実験ともに偏向なく筆が費やされているが、次第に拡がる理論家と実験家の乖離には色々と考えさせられた。生物畑の俺から見てまず驚くのが、理論物理学者の論文に対するスタンスである。もちろん各人で思想は異なるが、平均して、あまり間違いを恐れず、自分のアイデア (= 実験的裏付けのまだない新しいモデル) をポンポンと形にして発表する。個人的なコラボレーションも多い。他大学に数週間から数ヶ月滞在する間に、当地の研究者と議論を交わしてモデルを作るのである。

他者の興味を引かない理論はたちどころに忘れ去られるが、面白かったのは、論文の著者本人すらがしばしば自分のアイデアを何年も忘却する点である。インタビューでも「まさかあの論文に書いたことがこれほど当たっているとは。運が良かった」という回答を読むことができる。アイデア勝負、といえば聞こえが悪いか。実験事実は当然尊重するが、とりあえずそれらを無視して己の科学的直感に頼る場合も多い。今ある問題をどのようにすれば説明できるか、数学的に優美な形式に落とし込むにはどのようにすれば良いか。とにかくモデルを作り、予言しておいて、実験家にその確認を説いて回るのである。

実験家の方もなかなか大変である。素粒子の実験には加速器に代表されるような、膨大な経費のかかる巨大な施設、精密極まりない機器、数学的に高度な解析が要求される。既存の施設を利用しても数ヶ月から数年、新規のプロジェクトであれば 10 年単位の時間がかかる。多大な労力を費やして彼らは、現行の理論が予言する、あるいは既存の理論では説明できない粒子を発見する。実験グループの間には凄まじい競争があり、また理論家たちとは科学観の違いからくる軋轢が存在する。それでも物理学者は全体として協調しながら科学を発展させていく。

素粒子物理学にテーマを限った本書では、相対性理論、宇宙物理学などの関連分野に関する記述は少ない。そのために類書よりは敷居が高いようにも感ぜられる。しかし、素粒子やその発見の歴史に興味がある人にとっては最適の良書であろう。

2009/06/05/Fri.

本間三郎・訳。副題は「20 世紀物理学を築いた人々」。原題は "THE DISCOVERY OF SUBATOMIC PARTICLES"。

「まえがき」には「この本では、通常の原子を構成している素粒子、すなわち、電子、陽子、中性子の発見を取り扱っている」とある。これらの素粒子は誰もが知っており親しみやすい。各粒子の特徴と役割ははっきりしており、これら 3 つの素粒子で構成される古典的な原子のモデル——すなわち、陽子と中性子が原子核を構成し、その周囲を衛星のように電子が飛び回っている——を知らないものはいない。

これら粒子の「発見」を扱う本書では、理論よりも実験の話題が多くなる。20 世紀初頭、物理学者たちはどのような装置とアイデアでこれら粒子を捕まえたのか、これが詳しく書いてある。複雑で高度な機械を使っているわけではないので、非常にわかりやすい。

多くの実験は英国キャベンディッシュ研究所でなされた。中でも重要なのは J・J・トムソンによる電子の発見、そしてラザフォードによる原子模型の提唱だろう。この 2 つの話題には特に紙幅が割かれてある。もちろん、周辺の事情と歴史についても充分な記載がなされている。

原著第 2 版で追加されたという最終章では、ニュートリノや反粒子についても簡潔に述べられている。また巻末の「付録」では、本文中に登場する数式、公式の解説がされている。

2009/06/04/Thu.

「静と理恵子の血みどろ絵日誌」の 4 冊目。

アンニュイな伊の字先生の博打随想と、それとは全く関係のない西原の挿絵のギャップが相変わらずで笑える。連載中、西原が一度病欠したようで、その回のイラストは伊集院が描いているのだが、これが西原のテイストをよく再現していて面白い。

他に、2 人で行った対談が付く。

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2009/06/03/Wed.

越前敏弥、熊谷千寿・訳。原題は "DIGITAL FORTRESS"。ダン・ブラウンの処女作である。

舞台は米国国家安全保障局 (NSA)。その深奥に鎮座まします空前の暗号解読機<トランスレータ>。これによって合衆国は世界のあらゆる暗号を解読できるわけだが、その<トランスレータ>にウイルスが仕掛けられる。NSA の高級職員であり本作のヒロインであるスーザンは、上司とともにこの未曾有の危機に立ち向かう。一方、<トランスレータ>に仕掛けられたウイルスを解除する鍵を求め、スーザンの恋人である大学教授・デイヴィッドはスペインに飛んだ……。

梗概を書くと何ともバカバカしいプロットである。暗号やコンピュータに興味のある人にとって、鼻白む場面も多いのではないか。だが、短い舞台時間を細かく分割し、目まぐるしくシーンが移り変わるダン・ブラウン流の物語構成はこの処女作から充分に完成されている。そのため、読んでいて飽きるということはない。しかし読後は、「ふーん」と思うだけで何も残らない。これはある意味で凄いことではないか。狙ってやっているのなら尚更である。

2009/06/02/Tue.

『MORI LOG ACADEMY』の第 13 巻。副題は「ウは宇宙のウ」。2008 年 10〜12 月のエントリーが収録されている。これが最終巻である。と思ったらまだ 11、12 巻を読んでいなかった。

2009/06/01/Mon.

原作者・柳田理科雄がこれまで取り組んできた、「空想科学の世界に登場するヒーローたちが現実に存在したらどうなるか?」という問題とその解決策を漫画化した作品。第 4 作となる本作では前 3 作で登場したヒーローが一度に集結する。

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