- Book Review 2009/03

2009/03/06/Fri.

青木薫・訳。原題は "BIG BANG"。『フェルマーの最終定理』『暗号解読』サイモン・シンによる、ビッグバン宇宙論史。

この本は様々な読み方ができる。宇宙論に明るくない人にとっては格好の入門書となるだろう。一方、宇宙について興味がある人にとっては物足りないかもしれない。ニュートンに関する記述の不足、最新のデータ・学説に触れていないこと、数学的詳細の割愛、などなど。

それでも本書が優れているのは、宇宙論の発展を題材に、一つの科学史を提供しているからである。なぜ天動説は地動説に追いやられたのか、どのようにしてビッグバン宇宙論は発展してきたのか——。それは、科学的方法論が常に better なモデルを選択し続けてきたからである。

多くの科学分野がそうであるように、宇宙論もまた、過去においては神話と宗教の領域にあったことがらを説明しようという努力に端を発している。ごく初期の宇宙モデルは、日常の役には立ったものの問題なしとは言えず、まもなく矛盾や精度の低さが露わになった。やがて新しい世代の天文学者たちがそれに代わる宇宙モデルを提案し、その宇宙観を広めるために運動したが、科学の主流派は既存のモデルを擁護した。主流派もそれに反逆する者たちも、理論や実験や観測を援用しながら自説を立証しようとし、一歩前進を遂げるために何十年もの努力を要したこともあれば、セレンディピティーに恵まれて一夜にして科学の眺望が変わったこともあった。新旧両派とも、それぞれのモデルを証明する決定的な証拠を見つけようと、レンズから人工衛星まで、最新のテクノロジーをできるかぎり利用した。そしてついに、新しいモデルが圧倒的な説得力をもつに至り、主流派は古いモデルを捨てて新しいモデルに乗り換えた——宇宙論に革命が起きたのだ。それまで新しいモデルに批判的だった者たちの大半は、いよいよ覚悟を決めて忠誠を誓う相手を変え、パラダイム・シフトは完了した。

(「エピローグ」)

同様の主張は本書の至る所で繰り返される。この、科学の全領域に共通する「方法論」の実際が、本書の真のテーマであると言って良い。

「科学的」とはどういうことかを易しく教えてくれる 1 冊。