shuraba.com - 『自己組織化と進化の論理』スチュアート・カウフマン
2008/05/30/Fri.『自己組織化と進化の論理』スチュアート・カウフマン
米沢富美子・監訳。副題に「宇宙を貫く複雑系の法則」とある。原題は "At Home in the Universe"、副題は 'The Search for Laws of Self-organization and Complexity'。
著者のカウフマンがサンタフェ研究所で行ったカオスや複雑系の研究については、ジェイムズ・グリック『カオス 新しい科学をつくる』や、M・M・ワールドロップ『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』に詳しい。前書にカウフマンは直接登場しないが、アトラクターなど本書で扱われる重要な概念が平易に説明されているので一読をお奨めする。
本書のテーマは次の 2点である。
- 生命の誕生 (に代表される自己組織化) は偶然か必然か。必然ならそれを統べる法則は。
- 進化はダーウィンの自然淘汰によってのみ促されるのか否か。否であるならその法則は。
冒頭の章では、カウフマンの哲学が語られているのが興味深い。
うたかたの活動、複雑さ、そして強い普遍性はどこから来るのか。この問いこそ、われわれのまわりに存在する「秩序立った複雑さの創発」を理解するための探究にほかならない。(中略) 宇宙が進化するのは、究極的には、宇宙が平衡状態にないことの自然な現れではないのか。(中略) 非平衡状態において物質とエネルギーが結合したことの自然な帰結として、われわれは存在しているのかもしれない。多数の生命は生じるべくして生じたのかもしれない。まったくありそうもない偶然の結果なのではなく、当然生じるべき自然な秩序の実現として、生じたのかもしれない。これらのことが示されれば——ただし、まだその方法はわからないが——、そのとき、われわれは、宇宙の中における自分たちのほんとうの居場所を見つけることができるであろう。
(第1章「宇宙に浮かぶわが家で」)
本書で述べられる理論は多様多彩で要約するのが難しい。以下に、覚書程度のキーワードを列挙する。日記に書いたメモは「無償の秩序」を参照。
- 生命の起源となる物質として RNA が有力視されているが、それが DNA であったにせよタンパク質であったにせよ、自己触媒能がキーであることには相違ない。自己触媒能は自己複製能への一里塚であるからだ。
- ランダムグラフ理論では、要素数に対する要素間の作用数が大きくなると、相転移が起こり巨大なクラスター (多くの要素が 1つの結び付きに関連付けられる) あるいは結晶が生じる。
- 物質の種類が多くなり、代謝反応のネットワークが複雑になれば、ある生成物がある反応を促進する反応、すなわち自己触媒反応が自然発生するだろう。
- 相転移が起これば、それらは一つの集団的な自己触媒反応系すなわち代謝系になり得る。これは自己維持的であるし、あるいはさらに自己複製的であるかもしれない。
- アトラクターと遺伝子ネットワーク。
- 膨大な要素からなるライブラリのスクリーニング方法。
- 適応地形とその探索。自然淘汰のみでは問題が多い。
- ジャンプ (有性生殖、突然変異) のない探索は局所的なピークに行き着き、そこに閉じ込められる。
- 滑らかな適応地形図の上ではエラーによる崩壊に直面する。
- 系が複雑になればなるほど適応地形は複雑になり平均適応度は低下する。
- 完全にランダムな適応地形はない。自分が進化すると、それにともなって適応地形も相関して変化する。
- 「自己組織化は進化可能性にとって必要条件であり、自然淘汰から恩恵をこうむることができるような構造を作り出す」という推論 (369頁)。