- 『ゴルゴ13 第112巻 シャーロッキアン』さいとう・たかを

2008/05/29/Thu.『ゴルゴ13 第112巻 シャーロッキアン』さいとう・たかを

文庫版『ゴルゴ13』第112巻。

第384話『新法王の条件』

どうでも良い話だが、ローマ「法皇」と書かずに「法王」と書くのは天皇問題が関係しているのか。でも「教皇」っていう言葉もあるしなあ。

前法王・第264代ローマ法王ヨハネ・パウロ二世の暗殺未遂事件は有名である。歴代法王の何人かは現実に暗殺されているし、暗殺が囁かれる怪死というのも何件か存在する。世界に巨大な影響を与えるバチカンの主、ローマ法王は、常に暗殺の危険に晒されている。

旧KGB の狙撃手であるユーリー・ゴルスキーは、次期ローマ法王の有力候補者の暗殺を依頼される。一方、その情報を手にしたバチカンは、ゴルゴ13 に暗殺の阻止を依頼する。ゴルスキーはゴルゴと因縁があり、それはヨハネ・パウロ二世の暗殺未遂事件と関係している。ヨハネ・パウロ二世はポーランド人であり、この共産圏から来たローマ法王は東欧諸国に対して絶大な影響力を持っていた。ソ連が崩壊した要因の一つにヨハネ・パウロ二世の存在を挙げるのはもはや常識的だが、そのあたりの世界情勢と、ゴルスキー個人の物語が上手く描写されている。

ゴルゴ動くの情報を得たゴルスキーは超遠距離射撃によって計画を達成しようと試みる。これを阻止せんとするゴルゴの策は——、という話。

増刊57話『総統の揺りかご』

ヒトラーのクローンを作成せんとするネオナチの狂信者の研究施設を破壊してほしいという依頼がゴルゴになされる。

「ゴルゴ13」にはこの種のエピソードが多い。毛沢東のクローンを創ったバカもいたし、人間を液体窒素で保存して未来に復活させようとする会社もあった。いかんせん話の筋が荒唐無稽であり、大体において凡作となる傾向が強く、本エピソードの出来も今一つ。

見所は、回っている換気扇の羽に当たらぬように弾丸を通過させるゴルゴか。

ゴルゴ「直径三〇センチの換気扇の羽が、一秒に二回転……羽の隙間は十度、外周部を狙った場合にブレット (弾頭) が占める幅は二度。一二〇分の一秒の間に、厚さ五センチの羽を長径一・二センチのブレットが通過し終えればいい。秒速七・五メートル以上の速度があれば狙撃が可能ということか……」

ズキュ——ン

(増刊57話『総統の揺りかご』)

「ズキュ——ン」じゃねえよ。

第385話『シャーロッキアン』

人間の愛憎ドラマを主題にしたエピソード。

英国貴族のサー・フレッド・バーンウェルは、過去に友人を偽装事故死させんとして、ゴルゴに依頼したことがある。バーンウェルの奸計とゴルゴの狙撃によってライヘンバッハの滝壷 (ホームズとモリアティー教授が落ちたとされる滝) に落とされたディック・ターナーは、しかし奇跡的に命を取り留めた。事故のショックで記憶を失ったターナーだったが、十数年後にひょんなことから記憶が復活し、バーンウェルへの復讐をゴルゴに依頼する (ターナーは事故がゴルゴの狙撃によって起こされたものだとは知らない)。

ゴルゴは何も語らず粛々と依頼をこなすが、バーンウェルとターナーの 2人がゴルゴと関係していることを知る女性が存在した。彼女は、彼女を含めた 3人の愛憎ドラマに終止符を打つためにゴルゴに依頼する——。

要所要所でホームズ譚に関わる小物やエピソードが登場し、物語に彩りを添える。2ヶ所の高層建築物内で行われるゴルゴの狙撃も、それぞれなかなか凝っており、彼の活躍が楽しめる。国際情勢や最新情報、歴史の裏話などはないが、人間ドラマに主軸を置いたこのような物語もまた、典型的なゴルゴ譚の型の一つである。

増刊58話『一年半の蝶』

蝶マニアのターゲットをおびき寄せるために、世にも珍しい蝶を手に入れるところから仕事を始めるゴルゴ。このような「ゴルゴの舞台裏」エピソードでは、彼の用意周到さや非凡な着想が明らかにされるのが常だが、このエピソードは今一つ。

そもそも、「蝶を使用する」ということにそこまでの必然性が見出せないのだ。珍しい蝶についての蘊蓄はあるが、素材が生かせ切れていない印象が強い。