- 『大宇宙の誕生』福井康雄

2008/01/12/Sat.『大宇宙の誕生』福井康雄

副題に「『銀河のたまご』からブラックホールの新しい顔まで」とある。電波天文学の本である。

古典的な天文学が長らく眺めていたのは「光」だけだった。しかし光学的な解析には限界がある。例えば、宇宙の所々が染みのように黒くなっている暗黒星雲、あれは一体何なのか。これは光学的な観測だけではわからない。様々な波長の電波を観測することで、暗黒星雲が低分子の塵の集合であり、それが背後の光を吸収阻害することによって暗く見えていることがわかる。電波によって暗黒星雲が「明るく輝いて」見える写真は、電波天文学の威力を端的に証明する。

本書の第1部では、宇宙のスケール、銀河の構成、星の一生など、基本的な宇宙の知見について述べられる。易しい内容であるが、筆者らの研究成果を中心に記述される第2部からグンと中身が濃くなる。電波望遠鏡による暗黒星雲の観察、塵の中で形成される原子星の構造とその原理、ブラックホールや銀河の観測、既知のデータと新たに得られた知見を総合した推測、などなど。電波が照らす様々な宇宙の相貌が豊富なカラー写真とともに語られる。

特に、大規模な観測から原始星が誕生していそうな座標をスクリーニングし、詳細な観測に切り替えて実際にターゲットを発見する流れを描いた第3部では、現実の天文学研究がどのように行われているのかがよく理解できる。巻末には簡単な用語解説と参考文献リスト、索引が付く。

現代天文学の現場を見せてくれる良書。