- 『スパイの世界史』海野弘

2007/10/11/Thu.『スパイの世界史』海野弘

著者の本は、以前に『陰謀の世界史』を御紹介した。非常に面白かったので本書も手に取ったのだが、期待に違わぬ大著である。

スパイは最も古い職業の 1つ (もう 1つは娼婦) と言われるが、その存在が今日的な意味で確立し、また活発になるのは、やはり第一次世界大戦以後である。本書でも、第一部を「スパイ前史」としながらも、残る第二部から第十部までを「第一次世界大戦」から「一九九〇年代」に当てている。それほどまでに、近現代史におけるスパイの役割は大きい。少なくとも、そういうスタンスで本書は書かれている。

さて、スパイがスパイとして成立するためには、まずその存在が秘匿されなければならない。ところが、それでは「スパイ史」が書けないことになる。我々がスパイというものを知っているのは、彼らが失敗し、その存在が明るみに出たからである。したがって、スパイ史とは、スパイの失敗の歴史にほぼ等しい。完全犯罪が犯罪として認識されないのと同じく、完全なスパイは目に見えてこない (そこに陰謀史観発生の土壌があるわけだが。その意味で、スパイ史と陰謀史は表裏の関係にあるともいえる)。

本書では膨大なスパイ、およびスパイを用いた作戦が、豊富な史料を元に描かれる。近年公開された政府史料で初めて明らかになった事実も多い。我々が妄想的に想定するよりもかなり広い範囲で、スパイは活躍している。意外なほどだ。同時に、スパイの人間臭いエピソードもまた興味深い。

巻末には充実した参考文献リストと索引が付く。