- 『数学史入門』佐々木力

2007/04/15/Sun.『数学史入門』佐々木力

副題に「微分積分学の成立」とあるように、微積分の成立という観点から眺めた数学史である。

現在世界中に流布している数学は近代のヨーロッパで成立したものであるが、数学という学問は人類が最も古くから築き上げてきたものでもあり、その源流は当然ヨーロッパばかりではない。その根の一つがギリシアであることは間違いない (アルキメデスが機械学的な方法で原理的に微分を発見した) が、ローマ帝国の崩壊後、その果実を保存したのはインド・アラビア世界であった。近年、中世におけるインド・アラビア数学についての研究が盛んであるようだが、本書ではその成果の一端を垣間見ることができる。

アラビアはまた交易の社会でもあった。ここに中国の数学が輸入される。ギリシア系の数学はその高い抽象性・一般性に特徴があるが、中国やアラビアの数学は貿易という実用上の目的があったため、非常に具体的であり、算術を重要視した。微分積分学というのは解析学でもあるが、解析に用いる高等な計算術は主に非ヨーロッパ世界で発展した。中国数学の流れを汲む日本の和算も、その例の一つである。

中世におけるこれらの世界が十字軍によってヨーロッパにも波及し、ルネサンスによって近代数学の萌芽が生まれる。つまり近代数学は、ヨーロッパ、アラビア、インド、中国の数学が総合されたものなのである。そこで著者は「ユーラシア数学」という概念を提案する。これはなかなか面白いと思う。

最終的に微分積分は、ニュートンによって幾何学的に、ライプニッツによって代数的に確立された。微積分の発見については、ニュートンとライプニッツの間で先取権が議論されるが、どうもライプニッツの微分積分の方が包括的で体系的であるように思う。

どちらが先か、という話は、まァどうでも良い。私が面白かったのは、微分積分に到達するアプローチが様々であったことである。ニュートンの時代まで、数学の王道は幾何学であった。幾何学的な微分積分というのは直感的に理解しやすく、高校の教科書における説明もまた幾何学的である。しかし微分積分がその威力を真に発揮するのは解析においてであり、そのためにはどうしても代数的な理解が必要になる。ライプニッツはそれを成し遂げた。∫ や dxdy という、現在でも使われる記号を発明したのは彼である。

数学史の最新の成果が詰め込まれた良書。