- 『文化としての数学』遠山啓

2007/03/03/Sat.『文化としての数学』遠山啓

数学の本かと思ったら、数学教育の本だった。著者はまぎれもない数学者であるが、長く数学教育協議会委員長を務めてもいたらしい。

数学教育に色々と問題点があるのはよくわかる。私が最も問題だと思うのは、基本的に教師が文系であるということ。数学の教師は、数学の問題を解く手順を教えてはくれたが、では彼らが数学的な思考をする人物であったかというと、はなはだ疑問である。高校の後半になれば、生徒は理系と文系に分かれる。理系クラスのちょっと知的な連中には、理系担当の教師が本当の意味で「理系の人間」であるかどうかはすぐにわかる。理系の大学を志す若い彼らにとって、文系の理科担当なんかはアマチュアも良いところであって、バカにするか無視するかの対象でしかない。受験テクニックの修得ならば、塾に行けば事足りる。学校とは、効率を度外視した、本当の意味での学問の面白さを教える場所だと思うが、その能力を持つ教師が、とにかく理系の教科には少ない。要点はここに尽きる。教え方の問題ではないのだ。

そういう意味で、若い人にこそ本書を読んでもらいたいと思う。「数学という学問にどういう意味があるのか」という質問に、真摯に答えてある。適当に本書から見出しを拾ってみる。「倍とはなにか」「分数とはなにか」。こういう質問に答えてくれる数学教師が、果たしてどれだけいることやら。