- 『陰謀の世界史』海野弘

2007/01/08/Mon.『陰謀の世界史』海野弘

今年最初の大当たり。文庫本で 650頁余 (しかも文字が小さい)。大著である。

戦後、特に 1960年代以降のアメリカを中心として世界中に広まった「陰謀論」(conspiracy theory) を大量の文献によって多角的に論評する。採り上げられている「陰謀」も上質のものばかりで、いわゆる「トンデモ」は少ない。数々の陰謀論を、正すべきところは正しつつ、「陰謀史観」が提供する「世界の見方」には新しいものがあるとして、賛同的な記述も多い。「陰謀パラノイア」に対する興味深い分析もある。

それぞれの陰謀に出てくるアイテムの歴史的事実・変遷も詳述されており、資料としての価値も高い。巻末には、豊富な参考文献リストと、充実した索引が付く。テーマは多岐に渡る。目次からいくつか抜き出してみる。

陰謀愛好家にはたまらないラインナップである。しかも各々が濃い。

著者が挙げる陰謀論の特質は、次の 2点である。

  1. すべてはつながっている
  2. すべては今である

炯眼である。これらの前提があるため、「陰謀論」には理論的に無理が生ずる場合が多い。また、最初から「かくありき」という前提がある以上、「陰謀"史観"」という言葉も的を射ている。その意味では、マルクス史観や皇国史観とさほど変わらないわけで、研究の対象にもなり得る。それを見事に示したのが本書であろう。