- 『光る鶴』島田荘司

2006/11/15/Wed.『光る鶴』島田荘司

島田荘司御大による吉敷竹史もの。中編集である。収録作品は以下の 3編。

『光る鶴』

島田御大が力を入れている秋吉事件を題材にした作品。冤罪の確定死刑囚・昭島の再審請求を実現するため、吉敷が 26年前のアリバイ証明に挑む。

事件当日、後に昭島の養子となる赤子が、駅内の線路と線路の間に放置されていた。それを見付けた昭島は交番に連絡する。彼が赤子を発見できたのは、赤子の胸元に大きな銀色の折り鶴が光っていたからだった。逆にいえば、「鶴が光っていたとき」、彼はそこにいたことになる。

吉敷が推理で再現する当時の光景が美しい作品。回想による情景描写の素晴らしさは、まさに御大ならでは。

『吉敷竹史、十八歳の肖像』

吉敷が 18歳のときの事件。大学に入学した吉敷だが、当時は学園紛争が吹き荒れており、思想にかぶれていなかった田舎出の彼には、話の合う友人がいなかった。唯一、桧枝という学生とは会話が成立した。桧枝は学生運動に関わっていたが、吉敷と話すくらいでもあり、セクト内でも浮いた存在だった。

その桧枝が何物かに殺される。内ゲバによるものかと思われたが、警察の捜査も虚しく、事件の解明はなかなか進まない。桧枝にとっても、吉敷は数少ない友人だったようで、吉敷は何度となく警察から事情を訊かれる。警察に対する様々な疑問もあり、吉敷は独自に事件の究明を始める。

若い吉敷の葛藤や当時の身辺事情、そして、なぜ彼が警察官になったのかが語られる。吉敷ファン必読の作品。

『電車最中』

『灰の迷宮』で吉敷と共演した留井十兵衛の事件。彼の管轄内で、白昼の銃殺事件が起こる。早い段階で容疑者と思しき人物も浮かび上がり、簡単な事件かと思われたが、逮捕するまでの確証がなかなか出てこない。容疑者を特定する決め手になるのは、現場に残された最中 (もなか)。この最中は、一体どこに売られているのか。

『展望塔の殺人』などの中編に見られる、やや軽めの文体でテンポ良く書かれた作品。留井刑事の想い出や、吉敷との再開など、読みどころも多い。