- 『ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず』塩野七生

2006/10/01/Sun.『ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず』塩野七生

『ローマ人の物語』単行本第X巻に相当する、文庫版第27〜28巻。

この巻は他から独立しており、王政、共和制、帝政を通じてローマが構築したインフラストラクチャーについて述べられている。各種インフラはハードとソフトに分類され、ハード面の成果として街道と水道が、ソフト面の功績として医療と教育が、主に記述の対象となっている。

本の構成もいつもと違い、まず、巻頭と巻末の豊富な口絵が素晴らしい。写真で見られるということは、それが 2000年もの時間を越えて存在している、ということでもある。そこに驚く。ローマのインフラの特徴は、まず耐久性であり、そして持続的なメンテナンスにあった。ハード面に関しては、建設から維持までが「公」の仕事であると認識されていたのがローマである。したがって、街道も水道も基本的に無料で利用できた。採算は度外視。この方針の先鞭をつけたのが、アッピウス・クラウディウスである。

一方で、医療と教育は「自由市場」であった。ローマには公の病院も学校も存在しない (戦地の軍病院は別だが)。かといって、軽んじられていたわけではもちろんない。医師と教師にはそれなりの特典が与えられていた。この制度はユリウス・カエサルによって創始された。

ハードとインフラ、両者の対比が面白い。ローマ人は、インフラを「人間らしい生活をおくるためには必要なこと」と考えていた、と著者はいう。要するに、それが文明であろう。ローマのインフラの質の高さは、ローマ文明の偉大さを如実に示している。