- 『邪魅の雫』京極夏彦

2006/09/29/Fri.『邪魅の雫』京極夏彦

京極堂シリーズ第8作。

前作『陰摩羅鬼の瑕』とは一変し、『絡新婦の理』『塗仏の宴』で見られるような、複数の事件が多数の人間の一人称で断片的に語られるスタイルが復活。したがって、全体は極めて複雑でありながら茫洋としている。中心となるのは連続毒殺事件なのだが、その「連続性」がどうにも心許ない。証言や証拠は次々に上がってくるが、それらが全体像の中で何を意味するのか、どこに当て嵌まるのかが皆目わからないのだ。

中禅寺の活躍は少なめ。この人は、作を追う毎に働かなくなるなあ。前回は関口が重要な役割を演じたように、今回は榎木津が重い責任を担わされる。かの探偵の、普段は見られない表情を観賞できるのも、本作の魅力の一つである。