- 『脳がわかれば世の中がわかる』栗本慎一郎・他

2006/09/15/Fri.『脳がわかれば世の中がわかる』栗本慎一郎・他

「すべては、ここに始まる」という、何ともはやな副題がある。栗本慎一郎が主宰する「自由大学」の講義録。したがって、栗本センセイが書いているのは「序」だけである。講義は以下の 3講。

  1. 澤口俊之「ヒトの脳は、なぜ『進化』したのか」
  2. 養老孟司「『脳化社会』へ至った人間」
  3. 立川健二「世界は言葉のなかに存在する」

特に、立川によるイェルムスレウという言語学者の話が面白かった。イェルムスレウは「ソシュールの唯一かつ真の後継者」であるらしいが、日本で紹介されることは少ないという。

「言語というシステムには最初から話者たる主観が織り込まれている」という説は目からウロコだった。例えば、「鳥が木の前にいる」という言説は、つまり、木と「話者」の間に鳥がいることに他ならない。暗黙の「話者」を考えないと、鳥の位置は決定できないわけである。「客観というものはなく、常に観察者の存在が系に影響する」という、物理学の客観問題にも似ている (だから、最近は「観察者」ではなく「関与者」というらしい)。

人間が書く文章に、知らず「自分」というものが現れてしまうのも頷ける。そういうシステムなんだから、と言い切ってしまう言語学の本当にスゴい点は、そのことを言語そのもので記述してしまうところにある。ある意味、日本的な不立文字の発想とは全く逆で、とても西欧らしい学問ではあるまいか。