- Book Review 2004/08

2004/08/31/Tue.

「鬼一法眼」シリーズ第3作。

このシリーズは、1冊ごとに読んでも楽しめるようになってはいるが、特に本書は前作とのつながりが深い。まずは「<二>朝幕攻防篇」を読了されることをお勧めする。

最初、このシリーズを見かけたときは、数ある陰陽師ブーム便乗本の一種かと思ったのだが、俺はそれまでに藤木稟の著作を読んでおり、割と高い評価をしていたので手に取った。鬼一法眼でユニークなのは、まずは鎌倉時代という時代設定である。平安ではない。鎌倉時代の鎌倉が舞台で、登場する人物 (怨霊) の多くも武士である。これは新しい。

舞台設定

そもそも鎌倉幕府が起こったのは、非生産的・非効率的な、まさしく「陰陽師的なもの」に支配される政治形態に武士が愛想を尽かしたからである。だから武士は呪いや占いを否定する。それでは陰陽師の出番がないではないか、となるのだが、この時期、幕府と朝廷は仲が悪い。そこに鬼一法眼が活躍する素地がある。

また、「陰陽師的なもの」を否定するのは「現世の」武士である。歴史的に見れば、平家物語の頃から、一般の怪異に関する記述は激増する。「怨霊となった武士」は大勢いるわけだ。このシリーズでは、最初から源義経が怨霊として登場する。彼は、自分を殺した兄・頼朝を恨んでおり、鎌倉幕府の転覆を画策している。それを後押ししているのが後白河法皇 (怨霊) である。もちろん、それが朝廷の利益になるからなのだが、一方で、朝廷を恨んで憤死した日本一の怨霊・崇徳上皇は朝廷を引っ繰り返そうとしている。なかなか複雑で、鬼一法眼の立場もまた微妙なのだ。

さて、細かいエピソードも色々と興味深い。俺が一番面白かったのが、踊念仏の発祥エピソードと、不二尼 (人魚の肉を食って不老不死となったとされる尼) の正体である。この二つの逸話はぶっ飛んでいる。本筋とはあまり関係ないのだが、こういうところまで書き込まれているのが、このシリーズの魅力でもある。

2004/08/30/Mon.

歴史に名を残した男達の評伝集。取り上げられるのは、

の 14人。

凡夫の肖像

塩野七生が男について書いたエッセイは面白くて、俺も今までに『男たちへ』『再び男たちへ』を読んでいる。塩野七生は、これは歴史を書く人なら誰でもそうなんだろうけれど、深いところで歴史上の人物達への感情移入しており、「この男はセクシー」とか「こいつはダメだろ」みたいなことを書くので、かなり面白い。たまに矛先がこっちを向いたりして、凡夫にとっては身の縮む思いもするけれど。

本書では、塩野が得意とするローマ、イタリアの男達に加え、日本の男達も語られている点が興味深い。そのチョイスの仕方からしてユニークだ。特に面白かったのが、北条時宗と千利休。あと、これは日本人ではないが、毛沢東。毛沢東については、こういう切り口で取り上げられるだけでも珍しい。