山崎 日本の美術と西洋の美術はどこが違うか。熊倉[功夫]さんが言っていますけど、西洋の美術は、いわばそれ自体として完結している。けれども日本の美術は道具として使われる、あるいは季節に応じてあしらわれることで生きてくるというんですね。西洋の名画を壁に掛けておけば、これはもう年がら年じゅう百年掛けておいても何ら趣味を問われない。しかし、床の間の掛け軸というのは、季節に応じて換えなければ笑われます。それを言えば、日本の美術は人が手で動かして観賞するものなんですね。たとえば襖絵というのがありますが、これは動くんですね。動かし方によっては、とんでもない絵になってしまう。
(丸谷才一/山崎正和『日本史を読む』「近代日本 技術と美に憑かれた人びと」)